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「何だか、この前より大きくなっている様だけど」
葵は、嫌な感じも強くなっている様に感じた。
「そうですね、最初の時より、はるかに大きいです」
「このままだと、ますます強くなってくるかも知れません」
二人はそう言った、徳田の話を聞いて、何でも無かったと
納得したはずだったのに、まだ麗華には
葵を憎んだり、恨んだりする気持ちが有る様だった。
翌日、仕事をしている葵に、病院長の小田が
「宮田さん、先日一郎さんに会ったので、頼まれていた君が
今月から働くようになったと、報告しておいたよ。
一郎さん、随分喜んでくれてね~」と、言った。
ああ、これが麗華の怨霊の元になったのかと、葵は知った。
小田から、久しぶりに葵の様子を聞いて、一郎の気持ちは
少なからず揺れたのだろう、夫の、そんな気持ちの揺れは
どんなに隠していても、妻なら分かってしまう。
自分以外の女の事を考えている、それだけでも、プライドの高い麗華には
許せない事だったが、そのプライドが邪魔をして
一郎を責める事が出来ない。
やりきれない思いは、憎しみや恨みとなって、葵に向く。
そんな気持ちを抱えて、毎日を過ごしているなんて
麗華さん、可哀想だな~葵は、そう思った。
その日、仕事を終えて、バス停まで歩いている葵の横に、車が停まった。
「一郎さん」「久しぶり、ちょっと話が有るんだ、乗ってよ」
葵の方も、話が有ったので、丁度良いと乗り込んだ。
「元気そうだね」「ええ、お陰様で、貴方も元気そうね」
「まぁ、何とかやってるよ」そう言って、車を走らせる一郎は
ちょっと痩せた様に感じた。
カフェに入って、葵の好きな珈琲を注文した一郎は
「実は、先日、麗華と徳田って言う〇✕製薬の社員が
時々、こそこそ会っていると言う密告が有ったんだ」「えっ」
「それで、徳田を呼び出して、詳しく聞いたら、麗華が、君との事を
疑っていて、調査させていた事が分かってね」
徳田が、どこまで話したのか、分からない葵は、黙って聞いていた。
「まぁ、徳田と麗華の事も、君と僕の事も、何も無かったと
分かったんだけど」「そう、そうんな事が有ったの」
葵は、何も知らなかった事にした。
一郎は、麗華との結婚生活は、少しも楽しく無いし
疲れていても、全然安らげないと、愚痴をこぼした。
別れた女に、話す様な事じゃ無いと、全く気付かない
いつまでも鈍感で、おぼっちゃまな一郎に
「麗華さんが、なぜ私との事を疑ったのか、考えたの?」と、葵は聞く
「ああ、ただの焼きもちだろ」「なぜ、焼きもちを焼いたの?」
「さぁ、麗華の考えている事までは、分からないよ」
「夫婦でしょ、相手の事を察してやらなくっちゃ」
「好きで、夫婦になったわけじゃ無いよ」一郎は膨れた。
「それでも、結婚を決めたのは貴方よ、結婚したからには
仲良くしなくっちゃ」
「あいつは、お偉いさんの娘だって、お高くとまっているんだ。
僕の事だって、好きじゃないみたいだし」一郎は、弱々しい声で言った
「それは違うと思うわ、一郎さんの事は、大好きだと思う」
「えっ、どうして分かるの?」「だって、人に頼んで調査する位だもの
嫌いな人なら、そこまでしないわ」「そうかな~」
「そうよ、きっと貴方に、うまく甘えられない、シャイな人だと思うの」
「、、、、、」「だからね、貴方の方から、甘えてあげて
麗華さんが嫌がっても続けるのよ、そうすれば、きっとうまく行くわ」
「本当に?」一郎も、暗い毎日を変えたい様だった。
「ええ、折角の結婚生活だもの、楽しくしなくっちゃ
貴方は、麗華さんが大好きだって事を、しっかりアピールするのよ」
一郎は、暫く考えていたが
「大好きじゃ無いけど、僕、ちょっと頑張ってみるよ」と、言った。
「頑張ってね、貴方なら、絶対大丈夫よ」
葵の励ましは、いつも一郎を元気にする。
その夜、一郎は風呂から上がると「麗華、耳掃除をしてくれない?」
と、耳かきを渡しながら言った。
「私が、、ですか?」突然の事に、驚く麗華を「さぁ、ここ、ここ」と
ソファーの端に座らせ、その膝に、自分の頭を乗せる。
「あ、貴方、、」戸惑いながらも「それほど溜まっていませんよ」と
麗華は、嬉しそうに言った。
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