新しい毎日

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「この頃、怨霊が来ませんね」金がそう言う。 「もう、来ないかも知れないわ」と言う葵に 「どうしてですか?」と、銀が聞く。 「この前、一郎さんに会って、もっと麗華さんを大事にしてって 頼んだからね」「一郎さんは、葵様の言う事を、聞いたって事ですか?」 「ええ、元々優しいから、自分が納得すると、素直に頑張っちゃう人なの きっと、あの二人は、もう大丈夫だと思うわ」 「めでたし、めでたしですね」金がそう言い 「さすが葵様です」と、銀は感心した。 それからの三人は、平和な毎日を過ごした。 葵の仕事が休みの日は、地元の東京をはじめ、各地の名所旧跡を巡り 今の建造物に驚いたり、昔の建物を懐かしんだりしていた。 葵の仕事も順調だった、職場の独身のドクターや、男性職員は 「葵さん、あれだけ綺麗だから、もう彼氏が居るんだろうな~」 「落ち着いていますもんね~」と、噂していた。 ある日、並んで昼食の弁当を食べている葵に、サンドイッチを食べていた 同僚の女の子が「葵さんって、彼氏いるんですか?」と、聞いた。 近くに居た、男性職員の耳が、ぴくっと動き、聞き耳を立てる。 「今は居ないわ」「今はって事は、前は居たんですね 何故別れちゃったんですか?」若い子は、遠慮なく聞く。 「相手の家の事情で、仕方なく別れたの」「家の事情?信じられ無~い でも、葵さんなら、優しいから、そんな事になるのも分かります」 その子と共に、聞いていた皆も、一斉に頷いた。 きっと、その相手を、苦しめたくなかったのだろうと。 葵に彼氏が居ないと言う事は、その日のうちに病院中に知れ渡った。 その日から、独身男性陣は、自分と付き合ってくれないかと その機会を狙う様になった。 自信の有る者は、デートに誘いに来る、しかし葵は 相手を傷つけない様に、やんわり上手に断る。 「西野ドクターも、駄目だったそうだ」「え~っ、西野先生で駄目なら 俺なんか、100%無理だな」そう言う人も、断られた人も 皆、変わらず葵の事が好きだった。 女性陣も、葵が好きだった、独身の婦長の浜口は 「葵さん、子供が好きなんでしょ、だったら早く結婚しないと 子育ては、体力が居るのよ、ぐずぐずしてたら 私みたいになっちゃうわよ」と、発破を掛ける。 家に帰った葵は「本当に、皆さん、良い方ばかりなの」と 二人に話して聞かせる。 「山内先生も、西野先生も、葵様のお眼鏡には適わなかったのですね」 金がそう言った「そうね~二人とも、素敵な方なんだけど もう、お医者さんは良いかな~って感じなの」 まだ、どこかで、一郎との事が引っ掛かっている様だった。 葵が仕事に行った後「葵様は、まだ恋をする気には なれぬのでしょうね」と言う銀に 「そうかも知れぬが、もう30歳が目の前だ 早く結婚して欲しいと、願っているのだが」金は、そう言った。 「もし、結婚なさって、お子が産まれたら」 「それはもう、可愛いであろうな~」二人は、楽しい空想に浸った。 それから半年ほど経った小田病院へ、朝比奈と言うドクターがやって来た 専門は、内科だそうだが、小田病院で内視鏡の勉強をしたいと言う。 「何だか、ドクターらしくない方ね」女性陣が、そう言う様に 背が高く、しっかり筋肉が付いている身体は、体育の先生みたいだと 誰かが評した。葵も、その表現は、ぴったりだと思った。 朝比奈は、快活で、誰にでも気安く話しかけ、人懐っこかった。 笑うと、目が無くなり、見ている方も思わず笑顔になってしまう。 「やぁ、宮田さん、今日も手作り弁当だね この卵焼き、美味しそうだな~」葵にも、屈託なく話しかける。 「良かったら、一切れどうぞ」「悪いね~何だか催促したみたいで、、 おっ、良い味だね、お母さんが作ってくれるの?」 「いえ、私が作りました」「ふ~ん、料理上手なんだね、ご馳走様」 そう言った朝比奈は、翌日もやって来て 「今日は、ミニハンバーグですか?」と、弁当を覗き込む。 「良かったら、、」「有難う」葵に最後まで言わせず ミニハンバーグを口に入れ「これも、最高だね」と、笑う。
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