別れ

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一瞬、映画か何かの撮影に来ている、俳優が助けてくれたのかと思ったが それらしき様子は無く、赤い襟が覗く、黒い着流しに銀色の角帯 長い髪は、後ろで束ねている、眩しいほどに、キラキラしい顔の男は あの、お守りから出て来たように見えたが、そんな事が有る筈は無い。 「あ、貴方は?」「はい、誓約の言葉に従い、ただいまより 姫様を守る者、銀とお呼び下さい」何を言っているのかと まだ驚きが治まらない葵に「ややっ、足の皮が裂けておりますぞ」 男は、葵の足を見て顔色を変えた。 「あ、これは、転んだ時にストッキングが破れただけよ」 思わずそう言うと「破れた?と言う事は、この透き通ったスト何とかは 布なのですか?」男は、しげしげと、ストッキングを見る。 あまり関わらない方が良いかも知れない、そう思った葵は 「助けてくれて、有難う、では」と言って コンビニの袋に、手を伸ばそうとすると、銀と名乗った男は さっと、その袋を手に取り「これはまた、変わった袋ですね~ 何と言う材質ですか?」と、珍しそうに袋を触り 「さて、お住まいはどちらに?帰るとしましょう」と言った。 帰るって?何を言っているのか「ここで結構ですから」 葵はそう言って、袋を渡すようにと、手を差し出した。 すると銀は、その手を引いて「こちらですか?」と、歩きだす。 「ちょっとっ、何よ貴方、一緒に帰るって、何でよ」 さすがに、葵が、声を荒げると「私を呼び出したのは、姫様ですよ これから共に暮らすのですから、一緒に帰るのは当然です」 と、けろりとした顔で言う。 「私、貴方を呼び出した覚えなんか無いわ」葵がそう言うと 「いいえ、確かに、それは私の者と、言われました。 それが、私を呼び出す為の、誓約の言葉です」 「あれは、お守りを取られたから、それは私の物だと、言っただけよ」 「何ですって?お守りを盗られた?」銀は、叫ぶように言って 「何と言う事だ、まさか依り代を持って行かれたとは」と 悔しそうに言うと、がっくりと肩を落とした。 「どうしたの?」あまりにも落ち込んでいる姿を見かねて、葵が聞くと 「お守りに入っている石が無いと、私は、二度と石には戻れません そうなると、姫様を守る力も、回復する事が出来ないのです」と 力なくうなだれた、お守りの中の石に戻るって? やっぱり銀は、あのお守りから出て来たと言う事か。 信じられない事だが、そう思うしか無かった、そして、あのお守りを 持って行かれてしまった為、もう、あのお守りには戻れないとしたら 一体、どうなってしまうのだろう。 「仕方ないですね、今は、呼び出されたばかりで、暫くは元気です 元気なうちに、どうするか考える事にしましょう」 銀は、直ぐに立ち直り、明るい声でそう言って、歩きだした。 「あ、そこの角を曲がってね」葵は、慰める言葉も無く 手を引かれたまま、そう教えてしまった。 角を曲がった銀は「何と‼!まるで巨大な箱の様な、お屋敷ですね」と マンションを見上げ「こ、これはっ」と、入り口に駆け寄りながら 「途轍もなく大きな、ギャマンの扉?ですか?」と、葵を振り返る。 そんな銀を察知して、自動ドアが、す~~っと開く。 銀は、ぱっと後ろに飛び退き 「な、なんと、何もしていないのに開きました、どう言う事でしょう」 と、また葵を振り返る「そんな仕組みになっているのよ」 「そうでしたか、何やら、からくりが仕掛けられているのでしょうな」 吃驚したものの、銀は銀なりに納得した様だと 葵は、くすっと笑ってしまった。 次の、エレベーターにも目を丸くする「これは?」 「この建物の中を、上がったり下がったりする、乗り物よ」 「乗り物でしたか、さっき、20と言う数字を押しましたね」 「ええ、私が住んで居る所は、20階だからね」 「20階?お城の天守より高いのですか?」また、信じられないと言う顔だ 「銀は、何時代から来たの?」言葉使いや服装は、随分、昔の様だと思う 「最後にお守りしていたのは、江戸の吉屋と言う呉服屋の、奥方様で 奥方様が、お亡くなりになったのは、享保2年でした。 それから、ずっと呼び出される事は無く、眠っておりました。 この時代まで、石は受け継がれていたものの 誓約の言葉は、受け継がれていなかった様ですね」と、銀は言う。 「そうだね、私も、母から貰った時、昔から伝わる 女の厄災を祓ってくれる、お守りだと、聞いただけだったよ」
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