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そう言いながら、歴史にあまり詳しくない葵は、享保がいつの時代か
分からなかった、江戸と言う言葉が出たので
きっと江戸時代から来たのかも知れない。
そう思った時、エレベーターは止まり、チンと言う音と共に扉が開く。
どこで誰が、その音を出しているのかと、銀は、きょろきょろする。
「早く出て、閉まっちゃうから」葵にそう言われて
慌てて、エレベーターから出る。
何もかも、見た事の無い物ばかり、葵が、玄関のドアを開け
「これを履いてね」と出したスリッパに
「家の中なのに、履物を履くのですか?」とか「不思議な行灯ですね
天井にくっついて居て、昼間の様に明るいとは」等と
照明器具にも驚いていたが、その間中、銀のお腹は、ぐうぐう鳴っていた
「お腹が空いているのね」葵がそう言うと
「恥ずかしながら、この世に出て、人の形になると、お腹が空くのです
何か、残り物が有れば、頂戴出来ませんか?なに、明日になれば
近くの山へ行って、猪か鹿を獲って来ます」と言う。
葵は、コンロに水を入れた薬缶を掛け乍ら
「ここらに、猪や鹿の居る山なんか無いわよ」と、言った。
「ならば、ちょっと遠い山に行くか、兎や鳥などの小物でも」
「駄目駄目、人様の山に無断で入って、狩りなどは出来ないのよ」
「何と、では、川で魚など」「それも駄目よ、魚を獲って良い人は
ちゃんと許可を持った人だけなのよ」「私には、その許可は?」
「無理ね、戸籍が無いから、どこの誰かも分からないもの」
銀は、困った顔になった。
「さぁ、そんな事は心配しないで、お湯が沸いたわ
カップ麺でも食べましょう」さっきまで、まるで食欲は無かったが
あまりにも信じられない、銀との出会いで、驚いた所為か
葵も、カップ麺なら食べられそうだった。
銀は、お湯が沸いている薬缶を見て
「火の気は無いのに、なぜお湯が沸くのですか?」と、不思議そうに聞く
「これは、IHコンロと言って、炎は出ないけど、お湯は沸く道具なの」
葵は、簡単な説明をして、コンビニの袋から、カップうどんを二つ出し
フィルムをびりびり破ると、蓋を半分開けて、テーブルに座らせた
銀の前に置いた。
「随分、軽い器ですね」持ち上げた銀は、中を覗いて
これは何だろうと言う顔をする。
「テーブルの上に置いて頂戴、お湯が熱いから」葵は、カップの中へ
お湯を注ぎ、蓋をした、それを見た銀は、驚きの顔で
「この蓋は、紙だと思ったのですが」と、聞く「ええ、紙でしょうね」
「紙なのに、湯の上に蓋をしても良いのですか?」
「大丈夫な様に、作られた紙だからね」葵はそう言ったが
銀は、まだ納得できない顔のままだった。
葵が「うどんだから、5分待ってね」と、言うと「5分とは?」と、聞く
葵は、壁掛けの時計を指差し「あの長い方の針、今、3の所に有るでしょ
4の所まで行ったら5分よ」と、教え
買って来たおにぎりのフィルムも取って、お皿に並べた。
あのお腹の鳴り様では、カップうどんだけでは、足りないと思ったのだ。
ぼーっとしていて、沢山買い過ぎたが、銀の為には良かったと思う。
4個のおにぎりが乗ったお皿を、銀の前に置くと
「これはまた凄いですね~握り飯を作る達人が作った物でしょうか
見事に、同じ大きさで、形も素晴らしいですね」と、感心した顔で言う
「うふふ、これを握ったのは、機械よ」
「機械?と言うと、これもからくりで作ったんですか?人では無くて?」銀は、あり得ないと言う顔で、まじまじと、おにぎりを見つめたが
お腹は、最高に大きな音で鳴った。
「さぁ、沢山食べてね、全部食べても良いわよ
私は、うどんだけで良いから」葵の言葉に「頂きます」
銀は手を合わせて、一礼し、おにぎりを持つや否や、物凄い勢いで
食べ始め「何と言う美味しさ、こんな美味しい握り飯は、初めてです」
あっという間に、二個平らげる。
「うどんも出来たわ、一緒に食べてね」そう言って、カップの蓋を剥がし
「良く混ぜてね、中身は、何時までも冷めないの、熱いから
気を付けるのよ」と、注意した。
「さっきは、カチカチだったのに、お湯を入れただけで
うどんになるとは、、まるで、狐に化かされている様です」
そう言いながら、おにぎりも完食し、うどんの汁も一滴も残さず食べ
「はぁ~」っと、大きな息を吐くと
「こんな美味しいうどんも初めてです」と、にこにこして
「この時代は、何もかもが、進化しているんですね
建物も、食べ物も凄いです」と、言った銀は、いきなり立ち上がり
腰に差していた扇を持って、身構えた。
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