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「ど、どうしたの?」その真剣な顔に、葵もつられて立ち上がり
銀が睨んでいる方を見たが、何も無かった。
「姫は、私の後ろに」そう言って、自分の背中で葵を庇うと
右手の人差し指と、中指二本だけ立てて「えいっ」と言う
鋭い声と共に、横、縦と、空を切った。
灰色の陰の様な物が三つ、音も無く二人に向かって来る。
何か分からないが、嫌な気配に満ちたものだった。
銀は、左手に持っていた、閉じたままの扇を、右手に持ち替え
まるで舞を舞うような、軽やか動作で、その影を切って行き
ばらばらに細かくなった陰に向かい「雑魚めっ、散れっ」と言って
扇を広げて扇ぐと、影は消えてしまった。
銀は「姫、もう大丈夫です」と、葵を振り返った。
「あれは、何だったの?」葵がそう聞くと
「怨念が三つと言う事は、さっき追い払った奴らが
私達を、逆恨みしている様です、あれは、恨みの念です」と言う。
「恨みの念?」「はい、私に打ち据えられ、折角盗った財布も
取り替えされて、悔しがっているのでしょう、この様子では
お守り袋も、捨てられたでしょうね」銀は、悲しそうな顔をしたが
直ぐに「姫様、何が有ったか知りませんが、姫様の心は
今、隙だらけです、こんな時は、あんな下等な怨霊であっても
入り込まれてしまいますぞ、お心を、強く持って下さいませ」と、言った
「怨霊が入り込む?」「そうです、普通は見えませぬが、さっき私が
印を結んだので、姫様にも見えましたね、あれが心に入り込むと
心は闇に覆われ、やがて体まで病む事となります」「う、そ、」
「嘘では有りませぬ、それを祓う為に、私が居るのですから」
信じられない事だったが、確かに見た。
あの気持ち悪い、影のような物が、怨霊なのか、不安そうな葵を見て
「私が、傍に居る限り、あのような物には、触れさせませぬ
どうか、ご安心下さいませ」銀は、優しくそう言った。
「もう来ないかな~」「もう大丈夫だと思います、姫様は
お心の優しいお方です、人に恨まれる様な事は、滅多に無い筈です」
銀の言葉に、ほっとして「じゃ、お風呂に入って下さい
その後で、ゆっくり貴方の事を聞きたいわ」葵はそう言って
風呂の用意をしたが、それからが大変だった。
「これが、身体を洗うソープで、これが髪を洗うシャンプーとリンス
顔は、この洗顔ソープを使ってね」そう言う葵に
「何でこんなに沢山の洗い粉が必要なのですか?
一つ有れば、足りると思いますが」と、訳が分からないと言う顔をする
「洗う所に、一番良いものを使ってるの、とにかく覚えて頂戴」
「はい、ここを押せば良いんですね」「あ~っ、ここで押しちゃ駄目よ」
「すみません」「これが体を洗うタオル」
「タオル?手拭いに似てますね」「そうそう、手拭いの仲間よ
こっちのタオルで洗った髪の毛を拭いて、このバスタオルで
身体を拭くの」「これは凄い、何ともふわふわで手触りの良い」
と、バスタオルを広げ「随分、大きいですね~」と、目を丸くする。
「分からない物には、手を触れないで、私を呼んで頂戴」
葵は、細々と注意して、風呂に入れた。
「おおっ」とか「うわぁ~」とか、教えて貰ったのに
蛇口から、お湯が出る事にも驚いている様だったが
何とか、無事に入浴できたようで、風呂から上がった銀は
一郎のパジャマに着替えさせられ「こっちに来て」と
葵が、ドライヤーで髪を乾かす。
凄い音と、熱風に驚く銀の髪を乾かしながら
「髪が、キシキシしてるわ、リンスを忘れたでしょ」そう言って
香油を手に取り、髪にぬって、更に乾かし、ブラッシングをすると
サラサラの髪になった「どう?」と、葵が聞くと
「これは凄い、髪の毛が手から滑り落ちます」「鏡を見て」
「わぁ~髪が、艶々光っています」「気持ち良いでしょ」
「はい、分かりました、こうなる為に、色々な洗い粉や、道具が
必要なんですね」「そうなのよ」「しかも、どの洗い粉も
花の香りがして、うっとりしてしまいました」
どうやら、お風呂は気に入って貰えたようだ。
葵も、お風呂に入り、落ち着いた所で「私の名前は、葵と言うの」
と、名前を教える「葵様、良いお名前で御座いますね」
「有難う、銀は、どうして私を守る様になったの?」
「では、最初から、お話ししましょう、葵様のご先祖は、強い力を持った
陰陽師で御座いました」「陰陽師?」映画やアニメなどで見た事が有る
「はい、特に怨霊を祓う事に、優れておりました」
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