角蔵の過去

12/12
41人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
そして「さぁさぁ、何も無いが、昼飯にしてくれ」と言って 五目ずしと、具沢山の味噌汁に、青のりを散らした物を出した。 「美味しいですね~」五目寿司には、えんどう豆も入っている。 「まだ、えんどうが有ったのか?」角蔵が聞くと 「いいや、冷凍していた物さ」ヤスエは、マサに、スプーンを握らせながら 零しても良い様に、膝にハンカチを置いた。 「青のりの香りが良いですね」「そうかい、沢山食べておくれ」 「この前頂いた、海苔の佃煮も美味しかったです」 「パンに塗って、アジフライを挟んで食べたんですよ」金と銀がそう言うと 「へ~っ、パンにね~」マサが驚く。 「じゃ、今度、うちでもやってみよう」ヤスエはそう言って 「また、二人で海苔を採りに行こう」と、マサに言う。 「そうなると、嬉しいなぁ~」「なれますよ、先生も処置が早かったから 痺れも軽い、しっかりリハビリしたら、きっと元に戻るって言ってました」 銀が、そう言って励ます。 孫六は、太い竹を半分に割った、40センチ位の物を、手摺りの下に置き 「手摺につかまって、この竹で、足踏みをするのも、良いリハビリになるぞ」 と言った「青竹踏みですね」と、銀が目を輝かせ 「良いですね~」と、金は、それに乗って、足踏みして見せ 「私達でも、足が楽になります」と、言った。 午後からも、四人は、マサとヤスエが少しでも楽に、生活出来るようにと 雨戸の戸車を取り替えたり、縁側から降りる段を、一つ増やしたり ガラス戸の掃除をしたり、庭や畑に出る所の草取り等と、精力的に働いた 「今日は、俺の為に、いろいろしてくれて、有難うよ」 マサが帰って行く皆に、頭を下げる。 「な~に、お互い様だ」「そうだ、今度は、こっちが世話になるかも知れん」 「また来ますからね」そう言って、帰って行くのを見送って 「皆、俺の事を、こんなに親身に考えてくれて、、この島に来て 本当に、良かったと思うよ」マサは、しみじみと言った。 「そうだな、皆の気持ちに応える為にも、リハビリ、頑張ろうな」「うん」 「体が元通りになったら、約束は、ちゃんと果たして貰うからな それまでは、俺の言う通りにするんだぞ」「約束って?」 「忘れたのか?俺の方が年上だから、お前は、俺の死に水を取ってやるって 言ったじゃ無いか」「あ、そうだった、すっかり忘れていたよ」 「ひでぇ奴だな」「あっはっは」二人は、声を揃えて笑った。 その頃、角蔵は「孫六、今度は大仕事だ、お前の手が要る」と言い 「良いとも」孫六も、力強く頷いた。 孫六と別れて、帰りながら「大仕事って何ですか?」と、銀が聞く。 「ほら、これだ」角蔵は、この前 収穫した蜜柑を運ぶ機械を、取り外した所を指差し 「あのレールを、孫六に外して貰うのさ、孫六は、鉄鋼関係の仕事をしていて 溶接の免許も持っているんだ」「外して、どうするんですか?」 今度は、金が聞く「錆を落として、綺麗にして貰うんだ それを崖元に取り付ける」「ええっ、と言う事は?」 「そうさ、蜜柑の代わりに、マサを運ぶんだ」 「成程、それは良い考えですね」「私達も、手伝います」 「この前は、機械が動くなら、奥様と、お前達に、蜜柑の収獲をさせて 喜ばせようと思っていたんだが」「もっと良い、使い道が出来ましたね」 それが出来れば、マサを背負って、坂道を上ったり下ったりする事無く 楽に道路まで出られる、そこから手の空いて居る者が、リヤカーで運べば マサは、気兼ねなく診療所や、友達の家にも行けるのだ。 リフトに乗る所には、リヤカーを置いて置く小屋も要る。 「さぁ、忙しくなるぞ」角蔵は、大張り切りだった。 家に帰って、その話を葵と颯にして「角蔵さん、ますますやる気、満々です」 「何だか、角が取れたと言うか、顔まで優しくなった様な気がします」 「きっと、何か良い事が有ったんでしょうね」と、葵が言い 「そうだな、何か、張り合いになる物を、見つけたのかも知れない。 良かったな」と、颯も、嬉しそうに言い 「元気な人が、近くに居ると、皆も引っ張られて、元気になるんだよな 金と銀にも、励まされている人が多い、これからも頼むよ」 颯にそう言われて「はい、頑張ります」「皆さんが喜んでくれると 私達も嬉しいです」二人がそう言うと 葵が「金と銀は、本来は、子供を守る精霊なのに ここじゃ、お年寄りを守る事になっちゃったね」と、言った。 「葵様、人は60歳になると、子供に帰るって言うそうですから ここの皆さんは、全員子供です」銀がそう言ったので 「確かに、そうかも」と、四人は笑い合った。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!