茶々

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「こんな街中に馬がいるなんて」「珍しいな~」と、言っている所へ 走って来た30代くらいの男が追いつき ぺたりと地面に座り込んで、ゼイゼイと肩で息をしながら 「あ、あり、、あり、、」と、礼を言おうとした。 「大丈夫ですか?」銀が傍に行って、ぐっしょり汗をかいている 男の背中を擦った、その時「あっ」と、金が叫ぶ。 馬が、かき氷を二つとも口に入れ、もぐもぐした後、ぺっと容器だけ 吐き出したのだ。 「氷を食べるなんて」「こいつも暑かったんだろうが、大丈夫かな」 馬が氷を食べたと言う話は、金も銀も聞いた事が無い。 二人が、心配していると、やっと喋れるようになった男が 「捕まえてくれて、本当に有難う御座います」と、お礼を言って 「昼時で、人が居なかったので、誰にも怪我をさせずに、ほっとしています」と、安堵して、真っ青だった顔も、普通の色になった。 「良かったですね、ここに座って、しばらく休んで下さい」 銀が、日陰のベンチに座らせる。 ベンチに座った男は「こいつは、ブラウンと言うんです、ほら、茶色なので」 と、馬について離し始めた。 ブラウンは、父親が買って来た馬だったが、普通のサラリーマンで もう、退職した父親が買えるほど安かったと言う。 その理由は、直ぐに分かった、全く言う事を聞かない、やんちゃすぎる上に 馬らしくない、変わった馬だった。 「馬らしくないって?」金と銀に、顔を擦り付けて 甘えているブラウンを撫でながら、金が聞く。 「普通の馬は臆病で、ちょっと大きな音を聞くだけでも 怖がると聞いていたのに、こいつは、平気なんですよ。 馬は、人を見ると言いますが、こいつの場合は、それが特に酷いんです。 馬が怖い人の傍に、わざと寄って行ったり、追いかけたり 自分が好きな人には、そんな風に甘えたり」 「そうですか、私達は、ブラウンに気に入られたようですね」銀がそう言うと 「貴方達は、とびっきりのイケメンですからね~こいつ、女の子の所為か イケメンが好きなんですよ」と、言う。 「その上、好奇心が旺盛で、何でも新しい物とか 気に入った事には積極的なのに、気に入らないと、梃子でも動かないと言う 我儘な馬なんです」「まだ若いですね」「はい、まだ二歳ちょっとなんです」 ブラウンを買った父親は、春先に、心筋梗塞で亡くなってしまい 僅かな遺産と共に、この馬も譲り受けたが、仕事を持っている男は 世話が出来ず、妻が世話をしているのだが、その妻をからかうのだと言う。 馬が怖くて、びくびく世話をしている妻の、服を銜えて引っ張り、転ばせたり 鼻息で髪の毛を吹いて、わざと体を押し付けたり、厩舎から出そうとしても 踏ん張って出て行かない、その癖、厩舎に入れようとしても、入ってくれない 「もう、どうにかしてよ、でないと離婚するから」と 妻は、本気で怒り始めた、しかし、そんな変な馬を欲しがる人も無く 「だからって、まだ若いのに、馬肉にするのも可哀想で、何と言っても 父の形見なので、それだけは避けたいのですが、今回の様に、脱走して 街中を走るなら、それも仕方ないかなと、、」男はそう言って がっくりと肩を落とした。 「可哀想に、思いっきり走りたいだけなんでしょう」と、金が言う。 「ええ、ブラウンが走り回れる様な、十分な広さは、無くて」 「私達の島なら、いくらでも走れるんですが」と、銀が言う。 「島って、四喜島ですか?」「はい、あ、そろそろ帰らないと」 「そうだね、じゃな、もう脱走するんじゃ無いぞ」 金と銀は、ブラウンの首を、ポンポンと叩くと 「本当に、有難う御座いました」と言う男を残して、歩きだした。 すると、ブラウンが、その後を追う。 「こらこら、お前は行けないんだ」男がそう言って、手綱を引っ張るが それには構わず、男を引きずりながら、どんどん歩きだし、金と銀に並んだ。 「こら、お前は、自分の家に帰るんだよ」銀がそう言い聞かせるが ブラウンは、顔を擦り付けて来る。 「すっかり、貴方達に懐いてしまった様ですね、困ったものです」 男は、困惑しながらも「こうなったら、こいつは何も言う事を聞きません 迷惑でしょうが、一緒に付いて行かせて下さい」と言う。 「そうですね、私達が船に乗れば、さすがに諦めるでしょう」 金がそう言って「本当に、お前は我儘姫だな」と、笑った。
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