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葵の先祖である、岩倉晴信は、小さい時から大きな霊力を持ち
元々、陰陽師としての天分を備えていたが、更に厳しい修行を重ねた末
どんな悪霊でも、祓える陰陽師となり
帝の傍で、その力を使う事になった。
それまでは、帝の政敵や、政治に不満を持つ者の悪霊に、毎夜うなされ
よく眠れなかった帝だったが
晴信が来てからは、ぐっすり朝まで眠れる様になった。
喜んだ帝は「そなたは、この上ない私の宝物じゃ」と
晴信に、至宝と言う名前を呉れた、岩倉至宝となった晴信は
それからも、ずっと帝の傍に詰め、悪霊祓いをしていたが
帝に可愛がられていると言う事で、やっかむ連中が多くなり
帝に敵対する者にも、至宝の存在は邪魔だった。
邪魔な者は、呪い殺してくれようと、至宝だけでなく、その家族にまで
悪霊が襲って来る様になった。
自分の身を守るのは簡単だが、帝の傍からは、離れられない。
家に帰れない至宝は、家族、特に二人の子供の事が心配だった。
そこで、都の北東にある、小さな山に出掛け、そこに有る
丸い形が二つ並んでいる、双子石と呼ばれる、大きな石の傍へ行った。
その形が、乳に似ていると言う事で、子供を守ってくれる石だと言われ
村の母親達が、子供の安全を願うだけの石だったが
至宝には、その石が特別な物だと分かっていた。
至宝は、その石に「私の二人の子供を、お守り下され」と、強く願った。
すると、その石の中から「子を思う、親の気持ちは分かった。
だが、子供らを守るには、この石から出して貰わないとな」
「それが出来たなら、幾久しく、そなたの子孫を守ってみせよう」と
声がした、喜んだ至宝は、手を合わせ、石に一礼すると
「臨、兵、闘、者、陳、烈、在、前」と、大声で唱え、印を結ぶと
横縦、横縦と、九度空を切り「我が前に出られませい、石の精霊様」
と、叫んだ、そっくりの顔と姿で、出てきた二人に
至宝は、金と銀と言う名前を付け
金は若君を、銀は姫君を守る事になった。
「と言うのが始まりで、それからずっと、金の兄者は当主を
都のお屋敷で守り、私は、代々の姫君が、輿入れした所の
あちこちの土地で暮らす事になったのだ」
「そうだったの、でも、そんな力のある陰陽師だったのに
その名前は、伝わっていないのね」「至宝殿は、帝の陰を祓う者
表立った所には、顔も名前も出さなかったのですよ。
帝に敵対する勢力の者達に、常に命を狙われていましたから、その後
至宝と言う名前を継いだ方々も、皆様そうしておられたのでしょう」
「ふ~ん、岩倉の家って、今でも有るのかな?」
「さて、どうでしょう、何しろ長い年月が経ってしまった様ですから
血筋が途絶えていなければ、兄者が守っている筈ですが」と言う。
そして「この世界に慣れたら、兄者を訪ねて、都まで行きたいのです
兄者の石を借りれば、減った力を取り戻せるのですが
長旅になりますから、葵様を置いては行けませんね」と、言った。
「都って、京都の事でしょ、それなら、三時間ほどで、行けるから
大丈夫よ」「三時間と、申しますと?」「昔の時間なら、一刻半かな」
「何と、一刻半ですと?」銀は、ぽかんとした。
そして「馬を乗り継いでも、何日もかかります、そんな話、、」
信じられないと、首を振った。
「まぁ、京都行は、もうちょっと、この生活に慣れてからよね
もう、11時だわ、今夜は、もう寝ましょう」
葵は、銀の為に、居間のソファーに、寝床を作ってやり
「お休み」と、自分の部屋に行き、ベットに入った。
色々な事が、一度に起こった目まぐるしい一日
疲れている筈なのに、気持ちは高ぶっている。
なかなか眠れそうにないなと思った時、携帯が鳴った。
「葵、、、」一郎だった「すまない、こんな時間になってしまって、、
母の監視が厳しくて、やっと電話できた」
一郎の母は、折角まとまった縁談が、壊れるのを恐れて
一郎の傍から、離れないのだと言う。
「こんな事になって、、ごめんな葵、本当に御免」
そう言った一郎は、電話の向こうで、ぐしぐしと泣いた。
泣きたいのは、葵の方だったが、先に泣かれてしまうと
もう泣けなかった。
「泣かないで、一郎さん、もう決めた事でしょ、仕方ないわ」
葵は、慰めの言葉を掛けた。
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