莉子 はち

1/1

3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ

莉子 はち

あれから央人はマメに連絡をくれた。 『できればね。しゅんに会って莉子の気持ち整理してきて欲しい』 私の様子をみながらそう言った。 私もわかってた。 しゅんとのことちゃんとしなきゃ、 進まなきゃって‥ 。 怖かったけど央人が背中を押してくれて、 そ派にいてくれた。 恋愛対象とまでまだ気持ちきりかえられないけど、 感謝しているし頼りにしてしまっている。 ある日— しゅんの広場のそばを通ったらまだ灯りが見えた。 近づいたら3人くらいの知ってる顔が見えた。 もうお開きになる直前の雰囲気だった。 けど”今だ”って、そう直感的に思って3人の輪に近づく。 「久しぶり」 遠慮がちに声をかけた。 「あっ莉子ちゃん!元気だった?」 とみんなも答えてくれる。 コーヒーメーカーにコーヒーが残っていたのでそれをコップに入れて、 「これ一杯付き合ってくれる?」 と3人の輪に入る。 思ったよりリラックスできた。 でもやっぱりしゅんの方は見れない。 飲み終わってみんなで席をたつ。 コップを洗ってみんなに別れを告げる。 しゅんは何も言ってこない。 あぁだめだな…そう思ったその時—。 「莉子」 大好きな声に呼び止められ振り替える。 でも顔がこわばって笑顔になれない。 「莉子 あのさ」 しゅんは視線をさまよわせながら私の真苗を呼ぶ。 あぁ聞きたくない。 きっと楽しい話じゃないもん。 叫んでしまいそうだ。 『もししゅんとだめだったら、 俺を利用してよ』 自己防衛的に央人の言葉を思い出す。 不思議と気持ちが凪いだ。 「俺、俺、莉子を女として好きになることはできない。 ごめん」 としゅんは頭を下げた。 一筋涙がこぼれた。 でもしゅんはそれを知らない。 下げた頭をあげることはなかったから。 「さんざん期待させて、 莉子の気持ちわかってたのに、 こんな時間たってからこんなこと言って本当ごめん」 大好きな声が告げる悲しい言葉。 わりと客観的に聞いている自分。 「あ うん‥」 前なら泣いてすがってたかも。 でも私は大丈夫。 わかってたことだし時間もたってたし、それに…。 央人がいてくれるから…。 たくさんの言葉が私を冷静にさせてくれた。 「わかった また歌聴きにくるね」 笑えてはいなかった。 けど—しゅんが顔をあげなくてよかった。 顔を見たら抱きついてしまったかも知れない。 そう思いながらしゅんに背中を向けた。 これでいい。 そう自分に言い聞かせて夜道を歩いた。 涙だけは正直に、ぽたぽたと私の足跡になった。
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加