しゅん さん

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しゅん さん

央人に対抗心が湧いてから、 俺は央人にわかるようにわざわざ莉子に触れたり、 どうでもいいことでも莉子に耳打ちしたり、 莉子の好きな歌を歌ったり、 莉子に視線を向けたりした。 央人はやっぱり莉子を意識しているようで、 俺と莉子を盗み見るようになった。 まさか本気で好きとかないよな? 央人の取り巻きのような女の子たちは、 かわいかったりきれいだったり楽しい子もいっぱいだから、 はっきりいって莉子はそれに比べたら、 地味で取立て魅力があるとは思えない。 普通の男ならともかく央人は目が肥えている。 本気になるだろうか? いや、逆に莉子みたいな普通の子が、 央人にとっては新鮮なんだろうか? じゃぁもう手を出した? だとしたら、莉子はなんで央人に対して、 あんなに“普通”でいられるんだろう? 俺が莉子なら彼女面のひとつやふたつしたいだろう。 それがまた俺の対抗心をそそる。 俺、おかしいな。 莉子が好きとかそういうのじゃない。 たぶん央人の好きな女を、 俺が夢中にさせてるというのがいいんだ。 それは莉子じゃなくてもいい。 最低だ。 そう分かっても、俺の気持ちは止められなかった。  今日は早く帰る。 明日クライアントと早い時間に会うからだ。 俺がテーブルを片付けてると、 央人たちが飲み直す話をしているのが聞こえた。 片付けを手伝っている央人は莉子を気にしているようだ。 俺はわざと莉子を呼んで耳打ちする。 「明日さ早めにここ開けてコーヒーいれられる?」 耳打ちするような話じゃない。 でも特別感が嬉しいのか莉子は 「うん」 と満面の笑顔で答えてくれる。 央人の視線を感じて優越感に浸る。 でもどんくさい莉子はすぐに央人の友だちに捕まって、 央人たちと合流してしまう。 挙げ句当たり前のように央人に腰を抱かれる。 ここからは莉子の表情はみえない。 でも央人のあまりにも自然な動きに対抗心は大きくなる。
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