央人 ろく

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央人 ろく

莉子としゅんの関係がずれ始めたと感じてから, 莉子はなんだか空っぽになって行くように見えた. そうは言っても、仕事もちゃんとしてるみたいだし, しゅんのとこにも来て、 イツメンとも普通に出来ているように見えた。 でもそれは何て言うか、 事務的に“莉子”を演じてるみたいに見えた。 たまに遠くからしゅんの歌を聴きながら、 その声で体と心を満たして、 また無理やりエンジンをかけてるみたいな…。 例えは難しいけど、俺には何か"やばい"ように見えた。 「お前最近よく莉子ちゃん見てるね」 ダチに言われるほどにまでなってしまった。 こいつは信用できると思って、素直に答える。 「まぁな」 「いよいよ。年貢の納め時か?」 と言ってにやにや笑うダチ。 「いやでも意外だなぁ。」 「え?」 「莉子ちゃんには悪いけど、 央人のタイプってもっと華のある女か、 ハキハキした女だと思ってた。」 「それな、俺もなんで莉子に引っ掛かったのかわかんねえ」 自分でもほんとそう思う。 まさか莉子みたいなタイプのはまるなんて…。 しかもかつてないい真剣な気持ちだ。 「でもまぁいんじゃね?」 ダチは俺の肩をたたいて応援してくれているようだ。 そんなダチに力なく笑いかけて、 「でもさ、俺じゃないんだよ。莉子は」 と肩を落としてしまう。 「へ?」 つれは不思議そうに俺を見る。  「お前ならおとせるだろう?」 「まぁな。」 そう答えるけど、どうしても浮かない表情は隠せない。 「珍しく弱気だな? でも俺はお前のこと好きだぜ。 面だけじゃなくて、さ」 と胸に軽くパンチしてくる。 「サンキューな」 気休めでもありがたい。 「それだけ本気ってことだろ? あぁでも信じらんねぇ、 央人のこんな姿見るなんて。 ホント莉子ちゃんは罪な女よなぁ」 「はは…。なんだよソレ」 俺たちは同時に持っていた酒を口に入れた。 「まじでありがとう」 俺はダチにそう言ってから、 もう一度莉子を見つめた。 その視線の先にいるしゅんにも目を向けた。 そして、決心する。 一度しゅんと話してみよう!
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