莉子 なな

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莉子 なな

央人と会う約束した日は雨だった。 晴れてたらサンドイッチを作って、 外で食べようと言っていたから残念だな。 央人の働いているというレストランは、 私の通勤路にあった。 何となく一人では入りにくくて、 入店するのは初めてだけど…。 中があまり明るくないので、 入るかどうしようか、央人に連絡しようか、 店の外で戸惑っていると—。 「いらっしゃい、貸し切りだから」 と央人が中からトビラを開けてくれた。 「貸し切り?」 と驚いてしまう。 「うそ、5時まで閉店だから今俺しかいないってだけ」 央人がいたずらに笑っているので、 私もつられてしまう。 「え?いいの?」 開店前の時間に入れてもらうなんて、 ちょっと申し訳ない。 「うんマスターにもOKもらってるし、 まかないだけど一緒に食べよ。」 そう言って央人は中に案内してくれた。  席につくとすぐサンドイッチとスープがでてきた。  「俺がつくったから、 不味くてもこのお店嫌いにならないでね」 ここに来てから央人はずっと笑顔でもてなしてくれてる。 私のはす向かいに座って、 「さ、食べよ。いただきます」 と言って私にも食べるように促す。 一口サンドイッチを食べたら“ホワッ”として、 すごくおいしかった。 久しぶりに誰かとご飯を食べたかも。 「どう?おいし?」 「おいしい」 私の言葉に央人はニコッと笑ってくれた。 「ご飯てさ、一緒に食べる人も美味しさの大事なポイントだよね」 と央人は言う。 「俺はさ、家族とは正直あんまおいしいご飯の記憶なくてさ、 でも10代のときは飯がどうとか考えたことなくて、 でもこの店で働いてからそう言うのいろいろ、 オーナーが教えてくれてさ」 と誰もいないってカウンターを愛おしそうにみる央人。 きっとオーナーも素敵な人なのだろう。 「で、しゅんのとこでさ、 気の合うやつらがいっぱいできてさ、 飲む酒の味も格段においしいわけよ」 遠い目をしている。 きっとあの広場に集まるみんなを思い出しているんだろうな。 しゅんのところで夜しか会わない央人が、 他の仲間といない昼間の2人だけの空間で見せる仕草や表情は新鮮だった。 それとも、 今まで私がちゃんと央人を見ていなかっただけなのかな? リア充陽キャというフィルターで央人をみていた。 こんな普通の話をする央人が別人に見えてしまう。 そして思う。あぁきれいな人だなぁ、と。 そう思ったら、 実はこの人と接点を持っているって、 すごいことなんだって気づいてしまう。 てか私この人としまったんだ。 気まぐれで私を誘ったといしても、 私にとって悪魔的に奇跡のような出来事なんだ。 「見すぎ」 央人に言われて我にかえる。 「あっごめん‥なさい!」 急にいろいろと意識してしまう。 「いや なんで敬語?」 そんな私を見て笑っている央人。 そして、言葉を続ける。 「でもね。今日の飯は特別おいしい。自画自賛じゃないよ」 と私を見る。 「俺、莉子と会って今までで一番美味しいご飯食べれてる」 「お、央人っぽくないこと言うね」 まっすぐな央人の視線と、 笑えない空気に耐えられなくて逃げようとする私の視線。 そんな私の両手を央人の手が荒っぽくつかんで、 「俺っぽいって何?」 とさらに逃げ場を奪うように目で射抜かれる。
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