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莉子 はち
あれから央人はマメに連絡をくれた。
『できればね。しゅんに会って莉子の気持ち整理してきて欲しい』
私の様子をみながらそう言った。
私もわかってた。
しゅんとのことちゃんとしなきゃ、
進まなきゃって‥ 。
怖かったけど央人が背中を押してくれて、
そ派にいてくれた。
恋愛対象とまでまだ気持ちきりかえられないけど、
感謝しているし頼りにしてしまっている。
ある日—
しゅんの広場のそばを通ったらまだ灯りが見えた。
近づいたら3人くらいの知ってる顔が見えた。
もうお開きになる直前の雰囲気だった。
けど”今だ”って、そう直感的に思って3人の輪に近づく。
「久しぶり」
遠慮がちに声をかけた。
「あっ莉子ちゃん!元気だった?」
とみんなも答えてくれる。
コーヒーメーカーにコーヒーが残っていたのでそれをコップに入れて、
「これ一杯付き合ってくれる?」
と3人の輪に入る。
思ったよりリラックスできた。
でもやっぱりしゅんの方は見れない。
飲み終わってみんなで席をたつ。
コップを洗ってみんなに別れを告げる。
しゅんは何も言ってこない。
あぁだめだな…そう思ったその時—。
「莉子」
大好きな声に呼び止められ振り替える。
でも顔がこわばって笑顔になれない。
「莉子 あのさ」
しゅんは視線をさまよわせながら私の真苗を呼ぶ。
あぁ聞きたくない。
きっと楽しい話じゃないもん。
叫んでしまいそうだ。
『もししゅんとだめだったら、
俺を利用してよ』
自己防衛的に央人の言葉を思い出す。
不思議と気持ちが凪いだ。
「俺、俺、莉子を女として好きになることはできない。
ごめん」
としゅんは頭を下げた。
一筋涙がこぼれた。
でもしゅんはそれを知らない。
下げた頭をあげることはなかったから。
「さんざん期待させて、
莉子の気持ちわかってたのに、
こんな時間たってからこんなこと言って本当ごめん」
大好きな声が告げる悲しい言葉。
わりと客観的に聞いている自分。
「あ うん‥」
前なら泣いてすがってたかも。
でも私は大丈夫。
わかってたことだし時間もたってたし、それに…。
央人がいてくれるから…。
たくさんの言葉が私を冷静にさせてくれた。
「わかった また歌聴きにくるね」
笑えてはいなかった。
けど—しゅんが顔をあげなくてよかった。
顔を見たら抱きついてしまったかも知れない。
そう思いながらしゅんに背中を向けた。
これでいい。
そう自分に言い聞かせて夜道を歩いた。
涙だけは正直に、ぽたぽたと私の足跡になった。
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