央人 はち

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央人 はち

『しゅんのとこで莉子ちゃんに会ったよ』 ダチからそんな話を聞いて、 莉子からの連絡を待ったけど連絡は来なかった。 しびれを切らしてメッセージを送るけど返事がない。 アパートに行っても部屋わかんないし。 あぁ聞いとけばよかったなぁ! と悔やみながら一週間過ぎた頃。 家に帰るとドアの前に人影がある。 莉子‥。 思わず走り寄る。 莉子は俺を見て立ち上がる。 「莉子」 名前を呼ぶとその顔はみるみる崩れて—。 「うっ ぐっ ‥ あぁ 」 と嗚咽がもれたあと、 「あぁぁぁぁ‥」 と声をあげて莉子は子供みたいに泣き出した。 夜のマンションの外廊下でなりふり構わず泣く莉子に、 さすがの俺も焦った。 でもどうすることもできないほど泣き散らかす莉子を、 仕方なく抱きしめて背中をとんとんしてなだめる。 人が来なくてよかった。 莉子は5分位で落ち着いた。 俺の服も莉子の顔もぐちゃぐちゃだ。 思わず笑ってしまう。 あのさ。俺の前でこんなブスに泣く女いないよ。 そう思っていると、莉子はわかりやすくうろたえている。 「おいで」 と部屋のドアを開けて中に促す。 初めてじゃないのに、おそるおそる部屋に入ってくる。 促されるままにカーペットにへたりこむようにすわる。 俺はタオルをお湯で濡らして莉子に差し出す。 「ブスになってる」 ほっぺを軽くつねって笑いかけると、 はっとしてタオルで顔を隠す。 「俺さけっこうもてるんだけど」 というとタオルから少し目をのぞかせる。 「あの泣きかたはさ、俺を男として見てないよね?」 と意地悪に笑って頭をポンポンする。 「ご ごめんなさい」 「え?ほんとに男として見てない?まじでへこむわぁ」 俺の一言一言にあたふたする莉子がかわいい。 「ほら目ぇ腫れちゃうから、ちゃんと温めて」 とタオルで目を隠させる。 その間に暖かいレモネードをつくる。 テーブルに置いて、俺も莉子の横に座る。 「しゅんに振られた」 莉子が顔をタオルで覆ったままポツリと言った。 「そか…」 しゅんが俺との約束守ってくれたんだね。 俺的には嬉しいけどね。 黙っている莉子の肩を抱く。 「暖かいの入れたから飲みな」 そう言うと莉子はタオルを取ってレモネードに口をつけた。  「あったかい」 そう言ってゆっくりと飲み干したあと、 そのまま莉子の瞼が落ちていった。 子供かよ。 無防備に寝息をたてる莉子のおでこに唇をそっとあててみる。 「早く俺を好きになれ」 呪文みたいに莉子の耳元にささやいて、 莉子をベッドに運んで寝かせてやる。 そして願う。 莉子がいい夢を見れますように—。
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