3人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
央人 はち
『しゅんのとこで莉子ちゃんに会ったよ』
ダチからそんな話を聞いて、
莉子からの連絡を待ったけど連絡は来なかった。
しびれを切らしてメッセージを送るけど返事がない。
アパートに行っても部屋わかんないし。
あぁ聞いとけばよかったなぁ!
と悔やみながら一週間過ぎた頃。
家に帰るとドアの前に人影がある。
莉子‥。
思わず走り寄る。
莉子は俺を見て立ち上がる。
「莉子」
名前を呼ぶとその顔はみるみる崩れて—。
「うっ ぐっ ‥ あぁ 」
と嗚咽がもれたあと、
「あぁぁぁぁ‥」
と声をあげて莉子は子供みたいに泣き出した。
夜のマンションの外廊下でなりふり構わず泣く莉子に、
さすがの俺も焦った。
でもどうすることもできないほど泣き散らかす莉子を、
仕方なく抱きしめて背中をとんとんしてなだめる。
人が来なくてよかった。
莉子は5分位で落ち着いた。
俺の服も莉子の顔もぐちゃぐちゃだ。
思わず笑ってしまう。
あのさ。俺の前でこんなブスに泣く女いないよ。
そう思っていると、莉子はわかりやすくうろたえている。
「おいで」
と部屋のドアを開けて中に促す。
初めてじゃないのに、おそるおそる部屋に入ってくる。
促されるままにカーペットにへたりこむようにすわる。
俺はタオルをお湯で濡らして莉子に差し出す。
「ブスになってる」
ほっぺを軽くつねって笑いかけると、
はっとしてタオルで顔を隠す。
「俺さけっこうもてるんだけど」
というとタオルから少し目をのぞかせる。
「あの泣きかたはさ、俺を男として見てないよね?」
と意地悪に笑って頭をポンポンする。
「ご ごめんなさい」
「え?ほんとに男として見てない?まじでへこむわぁ」
俺の一言一言にあたふたする莉子がかわいい。
「ほら目ぇ腫れちゃうから、ちゃんと温めて」
とタオルで目を隠させる。
その間に暖かいレモネードをつくる。
テーブルに置いて、俺も莉子の横に座る。
「しゅんに振られた」
莉子が顔をタオルで覆ったままポツリと言った。
「そか…」
しゅんが俺との約束守ってくれたんだね。
俺的には嬉しいけどね。
黙っている莉子の肩を抱く。
「暖かいの入れたから飲みな」
そう言うと莉子はタオルを取ってレモネードに口をつけた。
「あったかい」
そう言ってゆっくりと飲み干したあと、
そのまま莉子の瞼が落ちていった。
子供かよ。
無防備に寝息をたてる莉子のおでこに唇をそっとあててみる。
「早く俺を好きになれ」
呪文みたいに莉子の耳元にささやいて、
莉子をベッドに運んで寝かせてやる。
そして願う。
莉子がいい夢を見れますように—。
最初のコメントを投稿しよう!