莉子と央人

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莉子と央人

季節が5回入れ替わった。 相変わらずイツメンがしゅんと馬鹿話をする。 莉子はしゅんのギターを難しい顔をしていじっていて、 周りに集まった女の子たちに爆笑されている。  「指短すぎでしょ?」 「いや、手がちいさいんだよ。かわいい」 とか言われ放題だけど、 莉子本人は真剣そのものだ。 しゅんが近づいて、 「こことここ押さえてジャーンってやったら、 それっぽく聞こえるよ」 と莉子に優しく笑いかける。 俺ももてるけど、しゅんの笑顔だって女子は悩殺される笑顔だな。 と少し離れたとこでその様子を見つめる。 「莉子休憩!」 と声をかけると 「うん」 と答えてみんなと一緒にサーバーでビールをついで持ってくる。  「これ飲んだら送るよ」 「えぇ莉子ちゃんあした休みだよぉ」 最近女友達になつかれる莉子。 「ごめんね。今日は帰るよ。また明日 ね?」 とその子の頭を撫でてあげる莉子。 少しお姉さんぶってるのも俺から見たらおかしい。 「もう、央人ずるいよ」 女の子たちに詰められる。 「まだ付き合ってないんだから、 あんまり莉子ちゃん独占すんなぁっ!」 とかヤジを飛ばされる。 「まだ付き合わないの?」 そんな女の子たちの言葉に、 しゅんが意外そうに莉子に尋ねる。 そしてそのしゅん質問に小さくうなずく莉子。 「なんかもったいなくない? 央人は凄くいい人なのに、 私でいいのか考え過ぎてよくわかんなくなっちゃって」 莉子は俺をちらっと見つつそう答える。 「ばかだね。こんなチャンスめったにないんだから、 大事なのは莉子の気持ちじゃない? 好きなら付き合っていんじゃない?」 そう熱弁するしゅんの言葉をじっと見つめて聞いている。 これって、(本人)がいる前でする話? ていうか、莉子はしゅんのこと見過ぎでしょ? わかってる、莉子が好きなのは今はしゅんじゃなくて、 しゅんの声だって。 でもかなり妬けるよね 「いいよ 莉子のペースで」 わざと大人ぶって俺が言うと、 莉子は安心したように俺を見る。 喉を鳴らす猫みたいだ。 「その顔。央人に見せるようになったんだね」 しゅんが小さく呟いたのは莉子には聞こえなかった。 「でもあんまり待たせてたら、 うちらがさらってっちゃうぞぉ」 女友達にそういわれて、ちょっと焦っている姿が、 とってもかわいく見える。 そこにいたみんなに笑われて、 ますます赤くなる莉子の気持ちはもう決まっているのかもしれない。
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