莉子 に

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莉子 に

その日はしゅんと2人きりだった。 時間も早かったし…。 しゅんはスマホを見ながら、 コーヒーとサンドパンを交互に口に運んでいた。  仕事の変更で急に休みを与えられて、うろたえてしまう。 やることなんて探せばいくらでもあるけど、 何となく全部さぼりたくなってしまった。 『しゅんがいたらいいな』 と何気なく広場へ足が向いた。 時間早いし、しゅんもいないかもって思ってたのに、 彼はテントの前でコーヒーをおとしていた。 他には誰もいないって思うと、怖気づいてしまう。 さっきまでは『しゅんがいたらいいな』って思っていたのに、 しゅんと二人だけだと思うと緊張してしまう。 少し離れたところで話しかけようか悩んで立ち尽くしてしまった。 でもすぐにしゅんにきづかれた。 「莉子」 ふっと笑ったあと 「ストーカーか?」 と言って手招きしてくれる。 「ごめんなさい。話しかけようかどうか考えちゃって」 素直に伝えてしゅんに近づく。 「遠慮しちゃった?はい、ここどうぞ」 としゅんのとなりの椅子を引いてくれる。 私が座るとおとしたてのコーヒーが手渡される。 「ありがとう」 暖かいコーヒーのマグを両手で包む。 「アーン」 そんなしゅんの声とともに、 急に目の前にしゅんの指につままれたチョコレートが差し出される。 条件反射的に、でも遠慮がちに口を開ける。 ぽんっと口のなかにチョコレートが入って来て、 甘さが口内に広がる。 まぶしくもいたずらな笑顔のしゅん。 「おいしいでしょ?」 しゅんはいつも自信がいっぱいだな。 「うん 」とうなずく。 少しの沈黙になぜか胸がざわめく。 そしてしゅんを見る。 「ん?」 とスマホから目を離して首をかしげて私を見るしゅん。 「みほれちゃった?」 と笑いながら聞いてくる。 「まぁ、央人ほどイケメンじゃないから、 みほれないか?」 と自己完結してコーヒーを飲む。 その唇から目が離せなくて、 なんだかんだドキドキする。 しゅんは急に身を乗り出して 「10代で初キスがまだな女の子って15%位なんだって、 ほんとかなぁ?」 とスマホを見せてくる。 唇を見ていたからドキッとする。 「莉子は?」私からパンに視線を移しながら、 そんなことをさらっと聞いてくる。 「キスは…高校生のときかな?」 好きな先輩とできたことは幸せなのかも、と思い出してしまう。 てかなんで素直に答えてるんだろう私…! 「へぇ」 そんな反応に、 『興味はなかったけど会話として聞いただけか』 と思ってしまう。 「しゅんは?」 「俺?あーうーんいつだったかなぁ」 なんかはぐらかされてる。 正直に答えた自分が余計にはずい。 「しゅんはもてそうだもんね」 あ、なんか嫉妬してるみたいな言い方になっちゃった。 締まったと思ったけど、しゅんはけらけら笑った後、 「央人じゃあるまいし」 といった。 「央人は噂を裏切らないもてっぷりだしね」 再び沈黙が訪れて2人とも静かにお茶の時間を満喫する。 別に気にしてるわけじゃないけど、 央人の話ばかりしていることにむず痒い気持ちになる。
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