一つ目小僧

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 初めてのお客様がいらっしゃいました。  そのお客様は来店されると一枚の高級そうな折り畳まれた和紙を私に手渡し、 「紹介で来ました。お話を聞いていただける、と聞いて来たのですが…」 と名乗りもせずに言ってきました。和紙を開いてみるとそこには、円の中にハートが四つ描かれたマークと、その脇に鮮やかな藤の花が描かれていました。初めての事なので訳が分からず、 「少々お待ちください…」 と言い、私はハートマークと藤の花が描かれた和紙を持って厨房へ飛び込みました。 「どうしました、若葉さん?」 その様子に気付いた相志さんが私に声をかけてくれた。 「お客様がこれを。紹介で来たって…」 相志さんは私から絵の描かれた和紙を受け取ると隅々まで眺めた後、顎に手を当ててしばらく考え込み、首を傾げていたが、そこへ横からふよふよとこんぺいさんが泳いできて、その紙を覗き込むと言った。 「ほぉ…珍しいな。こいつぁ『紹介状』だぜ、相志」 「あぁ、これがそうだったのか」 初めて見たといった反応の相志さん。というか相志さんでも分からない事ってあるんだ。サンとクロちゃんも相志さんの肩に登り、一緒になって覗き込んでいる。まぁ、クロちゃんのは只の真似っこ遊びなのだろうけど。 「まぁ相志が分からねぇのも仕方ねぇさ。この『四つ片喰』と藤の花は、ある程度の巫力が無いと見えねぇ染料で描かれてんだ」 こんぺいさんがタネあかしをしてくれた。なるほど。相志さんには白紙にしか見えないのか。というか、 「何ですか?その…よつ…」 「…変な事ぁ知ってるクセにこいつぁ知らねぇか。コイツは『四つ片喰』といって、奥州藤原氏の血を引く家の家紋だ」 「家紋?だったんですか、これ…」 「…ハートが4つくっついて可愛いマークぅ、とか思ってたな?」 「…すいません」 こんぺいさんに謝る私の横で、ほんの少ししょぼんとした様子を見せる相志さん。うっは、こんな表情も殺傷力高いよ。 「クロは知ってたのにゃ!教育テレビで見たことあるにゃ」 そしてその肩で偉そうに踏ん反り返って落ちそうになっているクロちゃん。ホントかな? 「で…一体何の紹介なんですか?」 私がこんぺいさんに尋ねると、 「そんなの決まってるだろ。『葛葉』へ『祟り』の依頼だよ」 と、あまり嬉しくなさそうにそう言った。 「祟りの…依頼?」 「殺したいほど強烈な怨みを蝶が導く――これは姐さんと夢見が構築したシステムだ」 こんぺいさんが解説を始めてくれた。うん。それは以前教えて貰ったから覚えている。 「じゃあそれ以前…先代様やその昔はどうやっていたのかと言うと…『関係者』からの紹介状に紫の花の何か――つまりそんな物が使われていたんだ」 そう言ってヒレで相志さんの持つ和紙を指した。関係者――物部や葛葉の存在を知る人々。つまり――国の在り方に関わるような人達の事だ。 「その代わり、依頼の裏にあるのは魂を裂かれるような怨みじゃねぇ。この国にとって…または関係者から『居る』より『居ない』方が都合が良いと思われた――それだけだ」 「でもそれって本当に…」 「あぁ。本当に只の人殺しだ。怨み晴らさでと井戸を這い上がって祟る訳でもねぇ。本当にお国の都合、お偉いさんの都合で祟っていたのさ」 嫌な事を思い出し、それを語るような顔のこんぺいさん。 「ではこの件――どうするんだ?こんぺい」 相志さんも判断しかねたのだろう。こんぺいさんに聞いていた。 「姐さんの判断に任せるしかねぇだろ。クロ、お前は今すぐ上に行って姐さんを起こして来い」 「わかったのにゃー」 「俺は一応『怨みの記憶』を確認する。相志は姐さんの支度を頼む。紅茶は出さなくていいぞ。若葉ちゃんとサンは――接客だ。客の話を一応聞いてきな」 こんぺいさんの指示でみんなが動き出す。さすがは紫苑さんの式神だ。いざという時には頼りになる。普段はセクハラ金魚さんなんですけどね。 『タタリアン』を『準備中』にして、お客様の向かいの席に腰を下ろす。 「若葉ちゃん、普通のお客と思って接しなくていいぞ。態度3L位でいいからな」 私の向かい、お客様の背後でこんぺいさんが私にそう言ってきた。そうは言われてもなぁ…冷たい感じでいいのかな… 「お話を、お伺いします」 笑みを浮かべず、落ち着いた調子で声をかける。こんぺいさんはそんな私を見て概ね満足だったようで、そのまま『怨みの記憶』の確認に入った。 「以前、新幹線で殺傷事件があった件はご存知ですか?」 最近話題になったニュースだったと記憶している。今になって判決が下りた事件だった筈だけど。確か刑務所に入る為に人を殺して、判決を聞いてバンザイしたとか… 「はい。でもニュースで報道している程度の事しか存じません」 「私はその犯人である小嶋一郎君の…生物学上のお父さんという事でお願いします」 変な言い回し…父親なら父親と言えばいいのに。なら『祟り』の標的はその息子か。 「生物学上って…実の息子さんなんですよね?」 私の問いかけに頷きも、首を振ることもしない目の前の男性。 「あくまで戸籍上、です。監督責任はありません。一郎君は精神鑑定で責任能力もあると判断されています。なので私達に賠償などの法的な責任は無いんです。だから、あくまで生物学上なんです」 殺傷事件を起こしたとはいえ実の息子を他人の様に…とその言い方に不満を感じながらも顔に出さぬよう我慢していると、“生物学上の父親”と私の間にこんぺいさんが割って入ってきた。 「若葉ちゃん、全部見たから話も聞く必要は無ぇよ。こんなクソ野郎、金だけ貰って追い返しちまっていいぜ。標的はその事件を起こした自分の息子だ」 と、『怨みの記憶』を覗いたこんぺいさんも不満を露わにしていた。  でも私は、本人の口から聞いてみたかった。自分の子供に対し『生物学上の』と言い切れる父親の口が、どうやって息子を殺すよう頼むのかと。  そんな私達を他所に、目の前の『生物学上の父親』は、今まで溜まっていたモノを吐き出すかのように言葉が止まらなかった。 「とにかく自分勝手で、5歳の時にはアスペルガー症候群とも診断されました。普通の子じゃなかったと分かったその頃から、私達は一郎君に対し厳しく接するようになりました。同居の祖母も『姉のは作っても一郎のメシは作らん』とまで言い切る…今風に言えば、実質的な育児放棄だったのかもしれませんね」 はははと笑う。何がおかしいの?育児放棄が笑い話なの? 「それでも学校の先生は『この子は普通ですよ』って言うんですよね。普通じゃないってのに。でも私達には好都合でした。私達は一郎君を病院や特殊学級には通わせませんでした。世間体です。でもね、ある日、キレて包丁と金槌を投げ付けてきたんです。それでもうどうにもならんと思って。私と妻は一郎君を避けるようになりました…怖かったんです。自分の子がこんな…理解も出来ない事をするような…怪物になってしまった…と」 面倒だからと育児放棄しておいて、言う事を聞かなければ怪物って…身勝手な。 「それでもなんとか中学までは我慢して通わせました。でもこれ以上は無理でした。私達夫婦は一郎君を自立支援施設に住まわせました。その後は定時制高校から職業訓練校に進み、就職したようです」 ここまで話を聞いて確信した。怪物を作ったのは貴方達両親だ。子供が苦しい時に寄り添うことを放棄して、手に負えなくなると『怪物』扱いして捨てたんだ。  『生物学上の父』の話はまだ続いていた。話せば贖罪になるとでも思っているのか。同情して貰えるとでも思っているのか。 「素直な良い子に育ってくれる筈でした。けど、あの…彼はもう話の通じない怪物になっていたんです」 ――話が通じないだって?今まで話すらしてこなかったのに何を今更だ。 「警察やマスコミは『親の育て方が…』とか『幼少期の虐待が…』なんてしたり顔で言うんです。でも僕達は虐待なんかしていない。だから僕はもう親である事を放棄することにしたんです」 ――いや虐待だ。子供の苦しみに寄り添わず見捨てた事は虐待だ。 「親としては失格なのかもしれない。でもやれるだけやってきた。これが最後の手段なんです」 ――何もしてこなかったからこうなったのに、それをやれるだけやった?  そう言うと、ほんの少しだけ暗い顔を見せながら、予め用意されていた『血の付いた形代』と札束の詰まったスーツケースを置き、小さく頭を下げて 「一郎君をお願いします」 と言った。 「お帰りください」 「あの、お願いの方は…」 「ここは懺悔室でも閻魔の前でもありません。怪物を作り出した貴方の罪が消える事はありません。荷物を置いてお帰り下さい」 私はそれ以上、この人達に何も言いたくなくて、目も合わせずに言った。  そうして『怪物の生みの親』は無言で頭を下げると『タタリアン』を後にしたのでした。  椅子に腰掛けたまま小さく溜息を吐き、立ち上がると狩衣姿の紫苑さんが店内に居た。 「ご苦労様でした、若葉さん」 私に向けて軽く微笑んでくれる。もうそれだけで疲れも吹き飛びます――なんて事は言えませんが笑顔でそれに応えると、やや不満げな相志さんが口を開いた。 「この依頼…お受けするのですか?黙って聞いていれば親の身勝手ばかり。この『依頼』だって保身と世論を沈めたいが為です」 こんぺいさんの話によると、『紹介状』での依頼は実行せずとも咎められる様な事は無いらしい。でも標的は、非常に身勝手な理由で殺人を犯している。  そんな相志さんの心情を察した紫苑さんが相志さんに声をかけた。 「お父様の知人からの紹介ともなれば、無碍にする訳にもいきません。それに奥州藤原ならば相志とも縁浅からぬ仲…でも相志は気が進まなさそうですね?」 「いえ、決してそんな事は…」 慌てて首を振る相志さん。紫苑さんはその様子を見ると、何故か私の方を向いて話しかけてきた。 「若葉さんは、小説『フランケンシュタイン』を読んだ事はありますか?」 何かと思ったら急にモンスターの話?映画じゃなくて小説だったの? 「い、いえ…」 「どんな怪物だと思います?」 どんなって言われても世間一般的なイメージしか知らないのでそのまま答える。 「野蛮な暴れん坊で人を見ると殺しちゃうような怪物…ですか?フランケンってそんなイメージですよね。フンガーって」 私がそう答えると、紫苑さんは静かに首を振った。 「いえ、むしろ彼は知的で純真。とても人間的で、そして思慮に長けた存在として生まれたんです」 紫苑さんの答えに、私は素直に驚いた。だってフランケンシュタインといえば私でも聞いた事のある有名な怪物。力が強く残忍だけど知性には乏しい。そんな印象だ。それが『知的で思慮に長けて』いただって?  フランケンシュタインに関する紫苑さんの話は続いた。 「彼は自分の事を『俺は哀れで、寄る辺なく、惨めだった』と語り、更に音楽を『鳥の鳴き声よりも甘い音』と詩人の様に表現出来る知性を有しているのです」 「すごい…そんな事を言っていたんですか?」 「たとえ罪人の死体から作られた、人間とは異質な生命であるとしても、初めは純真で無垢である。という事です。生まれついての人殺し(ナチュラルボーンキラー)など居ないという事なのでしょう。ですが怪物は、その扱い方が分からず少女を壊してしまう。更にはその外見の醜さから、誰からも理解される事無く恐怖の対象に――人殺しの怪物と呼ばれる事になるのです」 理解される事無く――それって何か… 「そうして怪物は、自分の創造主であるフランケンシュタイン博士に対し、言い放つのです。『どうしてそんなに命を弄ぶ事が出来るのだ?俺に対する義務を果たすがよい』…と」 「まるで…今回の標的になる人の言葉のようにも聞こえますね…」 この話は、つまり事件の犯人の事を指している。それに気付いた私がそう答えると、私達の話を聞いていた相志さんも納得したように目を瞑ったまま頷いていた。  そんな私と相志さんを見て、紫苑さんは静かに頷いた後、 「ちなみに『フランケンシュタイン』とは創造主たる博士の名前であり、被造物たる彼には名前すら与えられず、ただ『怪物』と呼ばれているのです」 これには相志さんも私と一緒になって「えっ」と声を上げていた。名前、無かったんだ…  そして“名前すら与えられていない”事…つまり親からの愛を全く知らない、という真実に気が付き、『怪物』が哀れに思えてきた私に、紫苑さんが「ですが…」と付け加えた。 「怪物は、己は存在してはいけない存在なのだと理解しています。そして最後は自らの体を火で滅ぼすと約束し、北極の氷塊の向こうへ消えるのです。自分は異物――悪だと理解しているのです。だがこの男にはそれが無い。生き汚く計算した上で嬉々として他人を屠り、さらには自分を脅かしたらまた他人を殺す、と脅迫の言葉さえ言い放ち、自分を認めさせる事にしか感心が無い。この男こそ同情など一切不要の――滅ぶべき怪物です」 「じゃあ…」 私の声にえぇ、と言い、私達に背を向ける紫苑さん。 「参りましょう。『鬼哭の辻』へ」  暮れ往く空は東も西も定まるを知らず、今日はそちらが茜空、明日はあちらが茜空。  鳴く鴉の声も無く、ただ名も知らぬ背の高い草が揺れる音だけが響く荒れ野の道。  …のはずなのですが、最近はクロちゃんがテーマソングを歌うようになりまして。  どこかで時代劇の再放送でも見たのかな。『にゃーにゃーにゃにゃー』と私の腕の中で歌いながらの道行きです。聞き慣れてくると結構雰囲気に合ってるかも――音程さえズレてなければ。  とにかくそんな感じで、首の欠けた地蔵を横目に通り過ぎた辺りで現れる、うねった松の枯れ木の立つ四辻。  それが『鬼哭の辻』なのです。 「紫苑様、今日は何をお使いに?」 いつものように恭しく相志さんが紫苑さんに尋ねる。 「いえ。今日は使わないわ」 ――使わない?こんな事は初めてだ。けれど相志さんは驚く様子も見せずに「畏まりました」とひと言残し、蝋燭と形代の準備を始めた。  『画図百鬼夜行』に載っていない妖怪を使うのか。一体何を呼び出そうというのだろう。そんな事を考えていると、待ちきれないと言わんばかりに宙返りを決めたこんぺいさんが、 「久しぶりの出番だぜ…全国の女子高生のみんな!待たせたな!」 と、誰に向けたのか分からないコメントを残し、蝋燭の輪へと向かって行った。渋い声はやっぱりカッコイイのだけど、全国の女子高生のみんなって何ですかそれは。  そんなやる気十分のこんぺいさんが、以前よりはススっと軽快に蝋燭へと近付き、その口から細い炎を長く吐いて大きく薙ぎ、一気に蝋燭へと火を灯した。派手だね。  紫苑さんは左手に骨鈴を持ち、辻の真ん中に並べられた蝋燭の輪に近付く。  左手の骨鈴を軽く振ると、骨同士のぶつかり合うカラカラという寂しげな音が周囲に響いた。 「双盃の左 塵玉の右 天を地と成す 逆撫の社」 唱えながら、左足の草履をたんたんと踏み鳴らす紫苑さん。  右手を胸の前で握り、人差し指と中指を立て、印を結ぶ。 「黄幡の御座は地に伏して 歳破の兵主は我が前に集う」 その言葉に応じるように、四辻の草むらから草履を履いた黒い足首――凶事の塊である辻神が現れる。ざりざりと地面を擦り歩き、蝋燭の前にそれぞれ足を揃えて並ぶ。  そして紫苑さんが呪文を唱えはじめた。  逢魔が時より出るモノ  誰そ彼に横たわる形無き理の貌よ来たれ  山より来たる物見の怪。罪科を見抜く眼を貸し与えよ。  冥府への導き手。罪を赦さぬ審判者よ来たれ。  怨みを糧に踊り出で怪異きを為せ  呪文が違う――山より来る物見?罪科を見抜く眼?何を呼ぶの?  紫苑さんは狩衣の胸元に右手を差し込んだ。抜き出された指の間には依頼人の血を受けた形代があった 「怪威招来――一つ目小僧!」 その言葉と共に、紫苑は円の中に形代を飛ばし入れた。  すると、呼応するように黒い足首、『辻神』達も囲いの中へ我先にと足を踏み入れてゆく。  途端、辻神達が血の付いた形代へと渦を巻いて吸い込まれていった。そして全ての辻神が吸い込まれた途端、円を作るように置いていた蝋燭の火が火柱となって吹き上がった。そしてそれは渦を巻き、巨大な焔の竜巻と化した。  炎熱と轟音が掻き消え、煙と土埃が残された『鬼哭の辻』に何かがいる。  ジーンズに灰色のパーカー。ポケットに両手を突っ込んで、フードを被った顔は伏せられている。その表情は伺えないけど、その肩は悪戯を披露するのが待ちきれない子供が笑う様に揺れている。  そして――  ガバッと急に持ち上げられたその顔には握り拳ほどの大きな目がひとつ。  そして、その大きな目玉の下に在る口は、普通の大きさながら狂ったような笑い声を上げ続けていた。  よくイラストなんかで見る分には可愛いとすら思える『一つ目小僧』だけど、実際に見るとここまで生理的嫌悪を齎すものだとは思わなかった。  というか、あの大きな目。見ていると私の中にある色々を見透かそうとしているように感じられて余計に不快なんだ。ってかまだ高笑いしてる。 「若葉さんも、あまり目を見ない方が良いですよ」 一つ目小僧から顔を背けながら、相志さんが教えてくれた。 「一つ目小僧は小僧、と呼ばれてはいますが元々は山麓に祭られる荒神の先触れ。『辻神』の足首から上なんです」 そう言われて『一つ目小僧』の足元に目をやると、確かにジーンズにパーカー姿だと言うのに、その足首は不自然に黒い裸足で草履――見慣れた『辻神』のそれだ。 「荒神って…神様の使いなら良い存在なんじゃ…」 「いえ、荒神はよく『祟る』神なのですよ」 祟り神の先触れだった存在…本当の『神の祟り』という奴か。 「かつては『大眼(だいまなこ)』とも呼ばれ、その一つ眼で人間の罪科を覗き見ては、主人に告げ口し、悪しき者に『祟り』とされる不幸を齎していたのですが、主人となる荒神崇拝が廃れ、大きな眼、というデザインだけが残った、道化に身をやつす元ベテラン諜報員。それが現在の一つ目小僧なんです」 まさか一つ目小僧にそんな大層な職歴があったとは思わなかった。 「人の罪科を見抜き、相応の罰を与える事にかけてはまぎれもないプロフェッショナルです」 明確な意思を持った辻神の上位種、といったところだろうか。 「ご注文はどうするの?」 大きな舌をぺろりと出しながら、一つ目小僧が尋ねている。そんな一つ目小僧から目を逸らさずに、 「特上で頼みます」 紫苑さんがそう言うと一つ目小僧は、あははっと高らかに笑い、口元に満面の笑みを浮かべて、 「はいよろこんで!」 と丁寧に頭を下げ、私達に背を向けて道の向こうへと…スキップしながら遠ざかって行った。  久しぶりの大型注文に足取りも軽やかな『一つ目小僧』を見送りながら、紫苑さんが静かに呟いた。 「祟り――ここに成されたり」
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