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それは、梅雨の時期になって間もなくの事だった。 入学早々産休になった担任の代わりに赴任してきた、新米教師からの相談。 「何ですか。頼み事って」 部活がある曜日にも関わらず終礼後の教室で足止めを食らった和樹(かずき)は、担任である北上(きたがみ)に単刀直入で尋ねた。 早く話を終らせて部活へ行きたい。 家でしか愛でる事ができなかった花達と、早く触れ合いたい。 「うん。(つつみ) 捺哉(なつや)っているでしょ?彼の事で……」 「出席させたい、と?」 「そうそう」 この1年C組の、唯一の空席。 入学式から1週間で、彼は姿を見せなくなった。 制服を着崩し髪を染め、目付きも悪ければ周囲と打ち解けようともしない。 問題のある生徒だと言うことは、言わなくても分かる風貌だった。 入試結果が学年首位と言う事だけでこのC組のクラス長を任された和樹だったが、クラスメイト自身の問題や”皆で仲良く”などと言うものには、興味も関心もなかった。 ただ任された雑用(しごと)をこなす、それだけ。 だから。 「面倒臭いので嫌です」 和樹は隠すことも臆することもなく、はっきりと言い切った。 目を丸くした北上が食い下がろうものなら、こちらもやや食い気味で「俺は知りません。他を当たってください」と断る。 あんな強がりで構ってちゃんな悪ガキの相手など、もう二度とするものか。 和樹は2週間ほど前に、その問題の生徒である捺哉と顔を合わせていた。 廊下でのすれ違いに「面貸せ」と呼ばれ仕方なく同行し、思った通り無駄な時間を過ごしてしまった。
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