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「はぁ!?」
翔は大声を出した。
「まだ持ってたの?」
「だってすぐにあの家に戻るかもしれなかったし……」
同棲を解消したら実家にも戻り辛くて一人暮らしを始めた。この部屋は一時的な住まいのつもりでいた。
「俺が丹羽に返しておくからよこせ」
「………」
私が持っていてはいけないと分かっていても翔に預けることはしたくない。
「香菜」
翔が顔を覗き込んだ。
「苦しむことはもうやめろ。俺がわざわざ丹羽の話をしに来たのは香菜に立ち直ってほしいからだよ」
「っ……」
涙が頬を伝って服に落ちる。
「いい機会だろ。鍵、丹羽に返せ」
私は渋々立ち上がって、テレビ台の引き出しから丹羽くんの部屋の鍵を出した。そうして翔の開いた手の上に載せた。
「ねえ翔、これを丹羽くんに返したら、丹羽くんは何て言うかな?」
「いつまでも持ってて気持ち悪いとでも言うかもよ」
「翔に言われると普通に傷つく」
「まだ想っててくれて嬉しい、なんて言うやつじゃないよ。もう丹羽に期待するな。あいつは単純に鍵を返してもらうの忘れただけだから」
「本当に私に遠慮がないよね」
昔からそうだ。翔は私を甘やかさない。
「これで吹っ切れたな」
「吹っ切れない……」
「吹っ切るんだよ」
強い言葉に顔を上げた。目の前には怖いくらい真剣な顔の翔がいる。
「俺さ、香菜に丹羽を会わせたこと後悔してる。あの日、香菜の会社の近くで飲まなきゃよかった」
丹羽くんと初めて会った日、私の会社の近くで偶然翔と丹羽くんと会って飲むことにした。
「こんなに香菜が傷つくなら、初めから俺が素直になればよかった」
「え?」
「お前俺のこと男として見てないだろ」
翔の言っている意味が分からなくて首を傾げた。
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