きっと幸せを願ってるよ

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「………」 私はまるで声が出なくなったかのように翔に返す言葉が浮かばない。今日という複雑な記念日に知らされると思わなかった気持ちだ。 「すぐにそんな気にならなくていいから、試しに俺を彼氏にしてみ。どう?」 翔は怒っているわけでも悲しんでいるわけでもなく、私の答えを待っている。 私にとって翔は友達以上だけれど恋愛対象じゃなかった。今更彼氏にすることなんてできるのだろうか。 「彼氏ってさ、その……キスとかするやつだよね?」 「キスもその先もするよ。香菜が彼氏としてきたことを俺もする」 翔とキス以上のことをするって想像したら、目の前の男が急に別人に見えてきた。 「だけど、俺は元カレとは違うよ。その先の未来も考えて言ってる」 「け、結婚?」 「そう」 いつの間にか涙は止まって、丹羽くんのことなんて頭から吹き飛んだ。 知らなかった翔が目の前にいる。 「香菜も今更他の男と生きていける?」 そう言われて丹羽くんと同棲していたころの記憶を思い起こす。 常に遅い帰宅、休日も仕事。それが耐えられなくて爆発した私を丹羽くんは見限った。 翔は丹羽くんと同じ会社、似たような忙しさだけど、何度も私に会いに来た。私も翔には気を遣わずに自然体でいられた。 「でも、この先翔を丹羽くんと比べちゃうと思う……」 「うん。それでもいいよ」 「いいの? 丹羽くんは翔の後輩だよ? 知ってる人の元カノと付き合っても嫌じゃない?」 「お前と何年一緒にいると思ってんだよ。今更どんなお前でも引かねえよ」 「ズルズルしがみついて重たくても?」 「まあ、抱えられるし」 「そういう意味じゃなくて」 「物理的にも、心理的にも抱えるよ」
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