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「いいの?」
振り返った翔は意外そうな顔をしていた。
「香菜は気まずくないの?」
「私はもう吹っ切れましたから。それに丹羽くんももう結婚してるしね」
翔が丹羽くんの結婚式に出席したのは去年だっただろうか。あの時もギリギリまでそのことを私に隠すから、字の下手な翔の代わりにご祝儀袋に名前を書いて渡したときの顔は今でも思い出すと口元が緩む。
「そう……吹っ切れたんだ……」
心なしか悲しそうな声だったから、私はコンロの火を止めて翔の横に座った。
「翔の方が吹っ切れてないんじゃない?」
「え?」
「私が結婚相手として選んだのは翔なんだけど。丹羽くんを忘れさせてくれたのは翔でしょ? まさか私を不安にさせないとか言っといて翔が不安になってるの?」
まだ私が丹羽くんに気持ちがあるんじゃないかと不安になっている。
「そうじゃないけど……」
「丹羽くんにとって私は昔の彼女。私にとっても昔の彼氏」
それでも翔は複雑そうな顔をする。私にプロポーズしたときの有無を言わせない態度はどこに行ったのだ。
「それよりも、丹羽くんの気持ちを察してあげなって」
「何が?」
「先輩の紹介で付き合った女と別れて、その元カノが先輩と結婚して式に招待されちゃった丹羽くんの複雑な胸中をだよ」
きっとこれまで丹羽くんも気まずい思いをしていたかもしれない。
「ああ……ならいいか、あいつを招待しても」
翔もすっきりした顔をして「俺らを見せつけるか」と呟いた。
見せつけられても丹羽くんは今更何とも思わないだろう。あっちももう結婚しているのだし。
招待状を受け取ったら何を思うだろう。良い別れじゃなかったから、私が結婚してほっとするかもしれない。いや、丹羽くんの性格だからきっと心から私と翔を祝福してくれるだろう。
望むとしたら、話す機会があった時にお互いの幸せを願う言葉が出るといいなと思う。
END
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