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【石炭ドラゴン】  プラムは機械竜の後ろ足の長い爪に、体を折り曲げるようにして引っ掛かっている。  気を失っているらしく、身動きを一切していない。しかしその体は風に煽られ不安定に揺れている。  機械竜はプラムを掴むように爪に乗せたまま、上昇と下降を繰り返している。  フィグは目を凝らし、プラムの様子を確認した。  体に目立った怪我はなく、土に汚れた形跡もない。地面に墜落したわけではないようだ。 (落下中に捕まったのか)  機械竜はフィグに襲い掛かることもなければ、プラムを傷つける様子もなかった。 「満腹機能が作動しているなら助かるんだけど……」  人間が造りだした機械仕掛けのドラゴン。フィグはそれを機械竜と呼んでいる。  伝説や神話の中に登場するドラゴンの獰猛な印象をそのままシステムに組み込み、姿かたちもそれらしく精巧に造られている。  食事も睡眠も取る人工物。そんな機械仕掛けの動物が、この世界には数多く生息している。 「プラムが起きたらびっくりするだろうな」  人類が多く生存していた時代でも、機械竜を実際に目にすることは一般的ではなかった。  出来上がった機械動物たちは広大な施設に保管され、人の目に触れることはなかったのだ。 (とにかくプラムを助けないと……。振り落とされたらまた谷底に真っ逆さまだ)  緑の目をした機械竜は、尚も谷間を飛び回っている。  フィグは覚悟を決めた。  機械竜が勢いよく寄ってきたその瞬間。フィグは足で壁を弾き、何の頼りもない、真下に闇の広がる虚空へと、勇敢にも飛び出した。  フィグは見事、機械竜の左翼の端へと着地した。  しかし、崩されたバランスを取り直すため、大きく羽ばたいた機械竜の翼は、フィグの予想以上にしなり、そして波打った。  その衝撃に、フィグは呆気なく振り払われてしまった。  何もない空中に放たれたフィグ。  無重力を感じたその一瞬。フィグにはスローモーションのように景色が映った。だが、直ぐにその感覚は失われ、急激に視界の空が狭まり始める。  風の抵抗を受けるも、フィグの体は確実に奈落の底へと落下していく。 (息が、できないくらいだ……このままじゃ……)  フィグは眉をひそめて考えを巡らせる。  このままでは、地面に叩きつけられてしまう。  背中から落下し続けるフィグは、徐々に近づく谷底の存在を感じ取る。  その時、風圧を受ける方向が、唐突に変化した。  ぐんと体に衝撃を受け、体が急速に上昇していく。  谷間を急降下していくフィグの体を、機械竜が捕らえたのだった。 「な!」  突然変化した空気抵抗に、瞬時には順応できなかったフィグは、しばらく片目を瞑り、歯を食いしばった。  呼吸が楽になったその時。太陽のほのかな光が頬を包んだ。  フィグを前足で掴んだ機械竜が、谷を脱したようだった。  木々が生い茂った広大な大地が一望できる。 「プラム! 起きろ!」  フィグは機械竜の後ろ足にぶら下がっているプラムに声を掛けた。  フィグの体はがっしりと機械竜に捕まれているが、プラムはただ乗せられているだけだ。今にも振り落とされてしまいそうなほど、大幅に風に揺られている。 「うう……」  プラムが眉を寄せ、微かな呻き声を上げる。そしてゆっくりと両目を開け、顔を上げた。 「フィグ……」  はっきりしない意識のまま、プラムは呟くようにフィグの名前を口にした。 「え……な、なに!」  自分の置かれている状況が瞬時に理解できないプラムは、機械竜の姿に驚き、身じろいでしまった。 「駄目だ! 動くな!」  フィグが叫んだその直後、プラムは腹を竜の爪から滑らせてしまう。 「うわ!」  だが間一髪のところで、プラムを両腕を掛け、留まることができた。  フィグはほっと息をつく。 「何これ! 本物!?」  プラムは機械竜を見上げ、怯えた様子もなく嬉々とした口調でそう言った。 「ああ! 本物の機械竜だよ!」  声が風に攫われないように、フィグは大声を出す。 「フィグ凄い! 私たち空飛んでるよ!」  抱えるようにして機械竜の爪にしがみつくプラムは、高揚した調子で話し続ける。  決して良い状況では無いのだが、プラムの楽しそうな表情に、フィグは思わず笑みが零れた。 「そうだね。でも腕プルプルしてるけど大丈夫?」 「結構きつい! あと熱い!」  プラムがそう叫んだ。  確かに機械竜の足は熱を帯びている。 「今まで長いこと稼動し続けてるんだ」  フィグは感心したように呟いた。  プラムが体を引き上げ、楽な姿勢を取る。  どこか楽しんでいる様子のプラムを、フィグは優しい瞳で見つめる。  だが、急にプラムは目を見開き、蒼白な顔を見せた。 「あ、あれ! フィグあれ!」  前方を凝視したまま、プラムは叫ぶ。  フィグもプラムの視線の先を向く。そして思わず顔を顰めた。 「……やっぱり、そう言うことだよな」  森の中にぽつんとそびえる岩の塔のようなもの。  その中心の辺りに位置する大きな穴の中に、小さな機械竜が数匹蠢いていた。    
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