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【石炭ドラゴン3】  徐々に近づく岩の塔。  風が真っ向から顔面を叩きつけてくる。 「フィグ! アタシ達多分餌にされるよ!」  プラムが眉を寄せて慌てたように叫ぶ。 「分かってる。何とか抜け出そう」 「でも、ここから落ちたら……」  プラムは下に目をやる。  数千年も生きる大木の頂点より、遥か上空を飛んでいる機械竜。  人が落ちれば即死は間違いない高さだ。 「小型の機械竜がいるなんて聞いたことない。それに、あんなに沢山……」 「ここから見ても五匹はいるよ」 「まさか、繁殖したのか? 人工物とは思えないな」  危機的状況にも関わらず、動じた様子もなく感心の声を上げるフィグ。   だが、プラムの表情は見る見るうちに曇っていく。行き過ぎた科学は、今の彼らには迷惑でしかない。 「どうする?」  プラムが再びフィグに尋ねた。  フィグは体をよじってみる。  彼を掴む機械竜の爪はびくとも動かない。それでもフィグは抜け出すためにもがき続ける。  輝く緑色の目をした機械竜は、フィグの様子など気にも留めずに飛び続ける。 (一か八か、あの岩の塔に飛び移るしかないか)  機械竜の巣に投げ込まれる瞬間。そこで上手く脱出することができれば、機械竜の餌にされることは免れる。 (問題はプラムよりも僕だ)  プラムは機械竜の爪によってやんわりと包まれているだけだが、フィグは前足によってがっちりと捕らえられている。  プラムが岩に飛び移るのは容易いだろうが、フィグはぎりぎりまで抜け出せない。 (どうしたものか……)  数十メートル先にまで迫った岩の塔。  もう悩んでいる時間はない。 「フィグ!」  賭けに出ることを決意した時、プラムが声を発した。  フィグはすかさずプラムの方を向く。 「ここ! 足に傷がある!」  機械竜の後ろ足の、付け根の辺りを指差すプラム。絶えず吹き付ける風に髪を騒がせながら、プラムは必死に訴える。 「そうか。配線が傷ついてるから、指を曲げられないのか」  プラムを乗せた、曲がり切っていない大きな指を見て、フィグは納得したように呟いた。  フィグは自分の腰をまさぐり、短剣を抜き取る。  プラムは黙ってフィグの動作を見守った。 「握る力を、少しでも弱められれば……」  自由になるため、フィグは機械竜の前足から握力を奪う決断をした。  人類の偉大な産物である機械竜を、傷つけるのは心苦しいと思いつつ、生き残るためには仕方がないと割り切った。  フィグは意を決した表情で、刃の露出した短剣を機械竜に向かって投げた。  短剣が、機械竜の前足の付け根に突き刺さる。  すると、機械竜は突然甲高い鳴き声を上げた。 「まさか……痛覚があるのか?」  予想外の事態に、フィグは顔を歪めた。  機械竜は暴れ出し、叫ぶように鳴き続ける。翼も正常に動かすことができないのか、バランスを崩し始め、高度が激しく変動する。 「わああ!」  安定しない飛行と、吹き付ける強風のせいで、プラムの体は荒々しく揺さぶられる。 「プラム! しっかり捕まってて!」  フィグは必死に機械竜の指を引きはがそうともがいた。  初めほどの固定力は無く、徐々に機械竜の指はぎちぎちと音を立てながら開いていく。  だが、真っ直ぐに飛び進まない機械竜に揺られ、視界が定まらず、目が回ってくる。 「上手く……外れない」  なかなか抜け出せず、焦り出すフィグ。  だがその直後。フィグの胴体を締め付けていた機械竜の前足が、突然大きく開き切った。  唐突に訪れた解放感に困惑する暇もなく、フィグの体は宙に投げ出された。  遥か真下には深緑の海が広がっている。 「フィグ!」  フィグの視界の端で、プラムが焦燥に顔を歪めて悲痛な叫び声を上げた。  追い打ちをかけるように、機械竜の翼が起こした風圧が、フィグの落下速度を加速させる。  だがフィグは、ゆっくりと時間が流れている錯覚に陥る。  離れていく機械竜。  今にも機械竜の後ろ足から振り落とされそうなプラムの姿を最後に、フィグの視界は生い茂る木々の枝や葉に阻まれてしまった。
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