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【発光ワタゴケの群生地】  安定しない飛行を続ける機械竜の後ろ足。  その上に乗るプラムは、呆けた顔でフィグが消えていった木々の隙間を見つめた。  時が止まったかのように、一瞬、風の音も機械竜の翼の音も聞こえなくなる。  バランスが取れずに上下に揺れる機械竜。高度は最初に比べればかなり下がっているが、低いとは言えない。  この高さから地面に叩きつけられれば、無事では済まない。 「フィグ……」  フィグの心配をしたのも束の間。  気を抜いたプラムの体が、大きく揺らいだ機械竜の足から滑り落ちた。  フィグが目を覚ますと、そこは苔の群生地だった。  地面に手をつき、起き上がる。その感触は思いのほか弾力があった。 「助かった……のか?」  体のどこにも傷がついていないことを確認し、フィグは安堵の息を吐く。  だがすぐに、機械竜の後ろ足に残してきたプラムのことを思い出す。 「……方向、どっちだろう」  フィグは辺りを見回す。  大小さまざまな岩に囲まれた空間。  無数の大木が、岩の隙間からその幹を伸ばしている。  岩にも木の幹にも光る苔が繁茂している。見渡す限り苔だらけだ。  その苔の種類も様々。その場一帯は一見、緑一色だが、良く見ると水色やピンク、紫などの色も窺える。  フィグは立ち上がり、歩き出した。 「プラム、ちゃんと抜け出せたかな」  そう呟きながら、フィグは直感で道を選んでいく。  もう空は赤みがかっていた。  日が沈んでしまったら、プラムと再会するのは困難になる。加えて、日が昇る前にプラムを見つけ出せなければ、何の記憶も持たない彼女を、独り、果てのない自然の中に放置することとなる。 (そんな心細い思いを、プラムにさせるわけにはいかない)  フィグは歩くスピードを速めた。  柔らかい苔の地面は長く続き、踏みしめたその場からきらきらと金色の粉が舞い上がる。  傾いた太陽の光は、ぎゅうぎゅうに生え揃った背の高い木々に阻まれ、森の中まで届かない。  薄暗く、視界の悪い景色が続いた。 「機械獣に、痛覚なんて搭載してなかったはず。だが、明らかにあの機械竜は痛みを感じていた」  フィグは独り言を呟く。 「組み込まれた学習システムが、機械竜に繁殖機能を追加させた。本能までも忠実に再現しようとしているのか。同時に痛覚までも己に存在させたのか。危険を察知するに、痛みは不可欠なんだろうな」  無感情な表情のまま、フィグはまたも機械竜に感心して唸った。  フィグの小さな唸り声は、岩と苔だらけの風景に、解けるように広がった。  苔の地面から、淡い光を纏った奇妙な生物が数匹飛び立った。その姿は足の長い節足動物のようにも、何かの植物のようにも見えるが、元は微生物の一種だ。  彼らは森の極一部の領域に生息し、風に漂うように移動する。  金色の粉が舞う、薄暗い自然の中で、彼らの放つ光はより際立ち、幻想的な雰囲気を醸し出す。 「プラムに見せたかったな」  フィグは澄ました顔で目の前の光景を眺め、残念そうな声で呟いた。  しばらくして苔の群生地から抜けたフィグ。岩で囲まれた景色も終わり、何の変哲もない森が広がっている。 「綺麗だったな」  苔の空間を振り返り、フィグはそう呟いた。  その直後、どこからか水の跳ねる音が聞こえてきた。瓶のような入れ物で、水を汲むような音だ。 「……こっちかな」  フィグはその音を辿り、木々を掻き分けて進む。  すると、夕日の差し込む開けた場所が見えてきた。そこには小川が流れており、その水は底が見えるほどに澄んでいる。 「あ」  思わずフィグはそんな短い声を漏らした。  小川の上流で、人影が見えたのだ。  その人影は太陽を背に、じっとフィグのことを見つめていた。
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