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タネなしブドウ
「君たちの仕事はとても簡単な作業だ」
薄暗いコンクリートの壁に反響し、工場長の声が響き渡る。
工場内には長いローター式の機械が道のように室内を埋め尽くしている。
「これは『ベルトコンベア』という。この上には『タネなしブドウ』が流れてくる。君たちは各配置につき、ブドウを一房ずつ箱詰めする作業をしてくれたまえ」
それが、僕がこの仕事についたときに受けた最初の説明だった。
『タネなしブドウ』。
それを箱詰めする作業が、僕の仕事だ。
僕は毎日、ベルトコンベアの上を流れてくるブドウを丁寧に箱に入れていく。
「タネなしブドウって、どうやって作るんだろう」
箱に入れようとしたブドウを眺めて、ある日ふと、そんな考えが浮かんだ。
「……おまえ、手が止まっているぞ」
背後から主任の声がする。
「申し訳ありません。いま箱に入れるところです」
僕は持っていたブドウを箱に入れる。
主任はそれを確認すると、巡回の続きに戻った。去っていく姿を、僕は横目で確認する。
主任が遠くに行ったのを確認し、いつも隣で作業をしている同僚に声をかけた。
「ねぇ、タネなしブドウってどうやって作るのかな?」
「…………」
「ねぇってば」
「……手を動かせ。見つかったらタダじゃすまないぞ」
「……わかった」
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