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連れてこられたのは工場長室だった。
仕事をクビにされてしまうのだろうか。
「なんだね。その顔は」
室内にいた工場長が僕に話しかけた。
「え? 顔?」
「ああ、実に不安そうという顔だ」
「不安?」
「……まぁいい。君、考え事をしていたんだって? 何を考えていたんだい?」
「その……タネなしブドウについて」
「ほう?」
「タネなしブドウで皆が喜んで、僕もその仕事に関わっているんだなって」
「そうだね。君は皆が喜ぶ仕事をしている」
そうなんだ!
……〈嬉しい〉!
「はい! それで僕自身には何が詰まっているのかと──」
「嬉しそうだね」
「え、嬉しそう?」
「ああ、実にいい笑顔だ」
「…………」
工場長は、さっきから何を言っているんだろう。
「だけどね」
工場長は立ち上がり、僕に近づいた。
「君に笑顔は必要ないんだよ」
「えっ……」
後ろから誰かに首元を叩かれた。
薄れていく意識の中、僕の目に映ったのは無表情の工場長と主任の顔だった。
僕、は──。
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