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初めて乗る新幹線は、驚きの連続だった。
まず、席が向かい合う形ではない。電車にも滅多に乗らない僕にとっては、そもそもたくさんの人が同じ乗り物に乗って移動していること自体驚きではあるのだけれど。前の人の視線が気にならない、というのは、電車では経験できない感覚だった。むしろ、自動車に近い。
と思っていたところで、一瞬嫌な思い出が過ぎる。それは葉月も同じらしく、妹はずっと窓の外を見ている。
「うわっ、すっげー!」
「ちょっと、新幹線では静かに。っていうか、私にも見せてよ」
「うわぁ! はえぇ〜! すげぇ〜!」
「ねぇ、ちょっと、見してってば!」
通路を挟んだ隣の席から、浩太と中原さんの騒ぐ声が聞こえる。正面の人の視線がないから、ついつい声を出してしまうのだろう。気持ちはわかる。
浩太の言った通り、景色が進むのが早い。ただ、手前は猛スピードで。奥の景色はゆっくりと移り変わっていく。自動車に乗っている時も、僕は外の景色を眺めるのが好きだった。猛スピードで移動しているのに、目的地はまだ遠くて。それでも少しずつ少しずつ、近くなっていって。
でもあの時は、真っ暗で景色なんて見えなくて。地面が近づいては離れて。上に揺れて、横に揺れて……。
「っ!」
再び嫌な思い出がフラッシュバックしていた。が、右手に違和感を感じて現実に引き戻される。
右手を見ると、葉月がギュッと僕の手を握っている。どうやら、葉月も同じ景色を思い出していたようだ。
安心させるように葉月の手を握り返す。
二人の手汗が滲んだところに、冷房の風が染み渡る。
大丈夫、落ち着ける。二人なら落ち着ける。だから、大丈夫。
新幹線に乗っている間、僕は何度も自分に言い聞かせた。
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