第二章 歩き出す僕たちへ(前編)

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 しかし、現実は甘くなかった。  関東ではないとはいえ、新幹線のある一ノ関駅には人手が多い。ましてや夏休み。子供の足で目的地まで行くのでさえ一苦労なのに、行き交う人を避け、券売機で自由席の乗車券を買い、その上で上りの改札を目指さなければならない。これは思ったよりハードだった。  元々、僕は方向音痴であると自覚している。出かける時は家族と一緒なことが多かったし、スマホの扱いに慣れている葉月がマップを開いてくれていることが多かった。  そのため、まず券売機まで向かうのが大変な道のりであった。走れば人にぶつかるが、それでも急がなければならない。  さらに、券売機の見方がわからない。チケットの購入は中原さんに電話して聞きながらやったので、自分一人で新幹線のチケットを買うのはこれが初めてだった。  機械的なお姉さんの音声ガイダンスに従い、どうにかチケットを購入。急いで改札口へと向かう。  駅のホームに向かいながら、ふと葉月を見つけられなかったときのことを想像してしまう。  僕が見つけられなかったら、葉月は一人で知らない場所を歩いているのだろうか。スマホも使えず、言葉を発しない葉月は周りの人に頼ったりもしないだろう。心細くて泣いているかもしれない。そう思うだけで、急に息苦しくなってくる。  それに、葉月だけではない。浩太と中原さんも置いてきてしまった。二人は僕が葉月を見つけられると信じているから、あえて残ったのだろう。しかし、見つけられなかったら。二人にも帰ってきてもらうしかない。新しくチケットを買う分のお金がかかるし、帰りのチケット代も無駄になってしまう。なにより、二人にとって無駄な一日で終わってしまう。それは二人の友達として、申し訳ないどころの話ではない。  強いプレッシャーを感じながら、僕は新幹線に足を踏み入れた。
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