掃除屋さん

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「おかえりー、チム。悄気げた顔して…疲れた?」 下宿先に着いたチムを、お下げ髪、銀縁眼鏡の少女がエプロンで手を拭きながら出迎えた。 「ああニーナ、俺はいいよ。おばさんの調子は?」 「母さん?昼は思わしくなかったけど、今は落ち着いてる。熊の胆が効いたんじゃないかな」 「何だよ熊って。時期的にお隣のヤーマダさんだろ、きっと。先々週だったっけ、お悔やみがあったの」 「かもね。座って。夕飯にするわ」 二人は台所に設えられた簡素なテーブルで肉のスープを摂る。 ニーナは母を起こさない様、小声ながらひっきりなしにチムに話しかける。 病人の看病で一日出られない鬱屈を、そうする事で晴らしている様だ。 一方、チムは迷惑そうな小芝居をしながら、話に付き合っている。 「でね、この本によると地表の残留物の毒性は、5百年で切れるんですって。それが本当なら、私達の生きてるうちに外界が見れるかも」 「へえ。でも病原菌を持った怪物がうようよしてるんだろ?」 「また、そんな三文記事を鵜呑みにして。ロマンが無いわねー」 「ロマンより今日の食事さ」 「食事って言えばね。『審判の日』以前は、人々は獣とか虫とか食べてたんですって」 「国立博物館に展示されてる気味の悪いやつ?それこそ熊とか言う…見た事ないけど」 「今のリサイクル食に切り替える為にアミノ酸を変質させる受容細胞を人体にね…」 「おっと、それ以上は勘弁してくれ学者様。頭が痛くなる」 奥から、ニーナや、頭が痛むわ。薬をお願い。とか細い声がした。 「ほらな」 チムは苦笑すると 「今夜は俺が診てるから。少し眠んな」 「でも大変じゃないのよ。こうして勉強もしながらだし」 「いいから」 「…ありがとう」
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