絶望ヒッチハイク

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「ありがとうございます!助かります。」 「どうされましたか。」 「いやあ。」 この男、やけに幸せそうな顔をしている。 俺の嫌いな顔だよ。幸せな顔というのは。 「実は、嫁が今ね、戦っておりまして…。」 「戦う、というと?」 「失礼、遠回しな言い方すぎましたね。出産です。さっき職場に連絡が入りまして、急いで病院に向かおうと思っていたのですが、なんだか道にものすごく迷ってしまいまして。いやあ、普段こんな迷うことはないんですけれども。」 「出産、ですか。それはたいそう幸せなことですね。お父さん、というやつになるんですね。」 「はい。不安です。やっていけるかなあ。」 心配しなくてもいい。 あんたも道連れだよ。 まあちょっとは感謝しているさ。 俺が死ぬ前に、最後に幸せな顔を見せてくれた。
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