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今日のライブはあの人がトリだったようで、歌い終わったらそのまま会場が物販会場に作り変えられていく。
こういうライブは初めてというのもあり、どうしたら良いかわからない私をよそに、折り畳み式の長机が運び込まれたり、端に寄せられていた丸テーブルが移動させられていた。
身の置き場に困ってしまったが、周りのお客さんはみんな慣れているのか、バーカウンターの近くに立っていたり、一度会場の外に出る人もいた。
地下アイドルのライブとは毎回こういうものなのだろうか?
「あ、いたいた! 今日は来てくれてありがとね!」
何も知らない私をこの地下ライブハウスへ連れ込んだ元凶がやってきた。
「お疲れ、比奈──」
「聖来だよ! ここでは、聖来!」
おっと、そうだった。彼女はここ、地下世界では地上とは違う名前を名乗っている。
デビューして三ヶ月、まだまだ新人の地下アイドル清水聖来。それが彼女の、この場所での名前だった。
「本当に助かったよ! 予約ゼロなのにトリ直前になっちゃってさ……やっぱり一人だけでも知り合いがいると心強いわ!」
数日前に今週末予定が空いてるか訊かれて、空いてると答えたらこのライブに絶対に来てと言われた時は心底驚いた。
それなりに仲の良い友だちだったのに、比奈が実はアイドルをやっていただなんて想像もしたことが無かったのだ。
突然のカミングアウトだけで面食らうというのに、ライブに来て最前列で応援してくれと頼まれた時は本当に驚いた。
……まさかこんな薄暗いライブハウスでのアイドルライブだなんて思わなかったけど。
「いや~、いきなりでごめんね! どう? 少しは楽しめた?」
初めてのことだらけで驚きっぱなしだったけど、楽しかったどうかと訊かれたら答えは決まっている。
「ねえ、比奈……」
「だから聖来だって──」
「どうしたらアイドルになれるの?」
そんな言葉が自然と口から漏れていた。
「私、あの人みたいなアイドルになりたい!」
地下アイドル現場初参戦の戦利品は、アイドルへの憧れだった。
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