プロローグ 届かなった「ごめんね」

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 ひしめき合う電車待ちの合間を縫いながらホームを進み、空いたスペースで立ち止まってから、開いた画面にメッセージを送る。 『いまからいく』  それからひとつ画面を戻って、上司のメッセージ画面を開いた。  一度、小さく深呼吸。躊躇いを断ち切るようにして指を動かす。 『すみません。今日だけ休ませてください』  送信。これでもう、後戻りはできない。 (……駅、戻らなきゃ)  実家は会社とは反対側。戻りの電車に乗るには、反対側のホームにうつらないといけない。  スマホから視線を上げた私は、降り口を目指して人波の間を縫いながら、必死に歩を進める。  けれどもさすがは通勤ラッシュ時。  やっと見つけた階段は、無言で伏目がちにホームへと上がってくる人が端から端まで絶え間ない。 「すみません……っ、すみません、通してください!」  ひるんでなんていられない。  必死に声をあげ、一段を降りては人を避け。  迷惑そうな舌打ちに奥歯を噛みしめながら、懸命に階段を降りていく。  ここさえ降りきってしまえば、あとは反対側に向かうだけ。  と、握りしめたスマホが受信に震えた。
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