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プロローグ 届かなった「ごめんね」
人生って、なんだろう。
東京へ向かう午前八時前のJR線。
もはや慣れてしまった圧迫感に耐えながら五駅を過ぎ、やっとのことで座席に腰をおろせた直後のこと。
お母さんから届いたメッセージに、息を止めた。
『くーちゃんが、もうダメかもなの』
くーちゃん。
中学生だった私が大雨の中、公園から拾ってきた犬の名前だ。
犬種はたぶんコーギー。
けれどもミルクティーみたいな茶色ではなく黒色で、おでこから鼻周りにかけてと胸、それから足の先が靴下を履いているみたいに白くて、私が「くーちゃん」と名付けた。
我が強くて、あまり甘えてはくれないけれど、私が悲しんでいたらそっと背中をくっつけて側にいてくれる。
そうしてずっと一緒に歳を重ねてきて、私は社会人に、くーちゃんは老犬になってしまった。
就職と同時に家を出てからも、月に一度は必ず帰るようにしていたのだけど……。
『今日だけでいいから、会社おやすみして帰ってこれない?』
(……そりゃ、帰りたいけどさ)
スマホを握る手にぎりりと力が入る。
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