プロローグ 届かなった「ごめんね」

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 お母さんからかかってくる電話の間隔が狭まるたびに、くーちゃんとのお別れが迫ってきているのは感じてた。  けれども社会人二年目。  度重なる残業と休日出勤に追われ、なけなしの休日は身体が摩耗した体力と精神を少しでも回復させようとしているのか、どうしてもなかなか起き上がれず。  次こそは、次こそは。  そう繰り返しているうちに、気付けば最後に帰ったのは、五か月前のこと。 (でも、休みたいって言ったって、きっと上司は許してくれない)  ことあるごとに、自分は親の危篤時も仕事をしていたと得意げに話す人だ。  おまけに部長も、そんな上司を「社会人の鏡だ」、「キミたちも見習いたまえ」と褒めたたえている。  数か月前、奥さんの出産時に早退した先輩は、未だに二人からの風当たりが強い。 (……私なんかが、それも、実家の犬が危なくて……なんて理由で休んだら、きっと嫌がらせされるにきまってる)  ごめんね、くーちゃん。  あんなに楽しい時間をくれたのに。あんなに、寄り添ってくれたのに。
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