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私はあなたの苦しいだろう最後の最後に、頑張ってと頭を撫でててあげるどころか、「ありがとう」と伝えることすらできない。
ぽたり、ぽたりとスマホに水滴が落ちる。
震える指を無理やり動かして、メッセージ画面に「ごめん、無理」と打ち込んだ。
あとは送信を押して、涙を拭いて、このままいつものように会社へと運ばれていくだけ。
そう。それでいい。
だってそれが、"正しい"社会人なのだから。
――本当に?
指が止まる。
本当に、私はそうまでして"正しい社会人"でいたいのだろうか。
大好きなくーちゃんの最期すら会えず、理不尽な上司の罵詈雑言に耐えながら。
昼ご飯はろくに口に出来ず、夜はくーちゃんに謝りながら泣いて、朝なんてこなければいいのにって絶望しながら布団にくるまる。
そんな、他の全てを犠牲にしてまで続けたいほど、この仕事が大切なんだっけ。
(……違う)
私が大切なのは。私が送りたい、人生は。
「――すみません降ります!」
叫んだ私は人をかき分け、電車から飛び降りた。
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