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国立博物館と華麗な書体で印字された看板の下にある青銅色の格子の閂を胸元から鍵束を取り出して開けると象牙色の巨大な博物館の正面の脇にある裏口から中に入った。先月取り付けたばかりの電灯が照らす白と黒の大理石をはめ込んだ床を少し歩いた所に黒い札で警備課事務室と白い文字で書かれた部屋に入った。お早う御座います、と挨拶した私の声に私と同じ黒い外套に身を包んだ青年がああ、と声を返した。金髪を肩まで伸ばした意思の強い、それでいて険を感じさせない瞳をした青年は自他ともにその容姿の良さを認めており、私の先輩であった。私は外套を脱いで壁の釘にかけ、手袋はしたまま机に座った。間髪を入れず先輩は黒い手袋の手に持った万年筆を私の方へ突きつけていった。
「東洋文明室の左奥から三番目のガラスが汚れてる。きっと額の皮脂だ」
すみません、と私は反射的に謝罪した。見落としてました。
「ああいう類のものに、僕が触れたらどうなると思う」
「痛いかと思われます」
「実際、痛いんだよ。爪と指の間の肉に針を刺したことがあるかい。そんな風に痛むんだ」
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