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キツネの女将は耳を立てました。
「次の料理が出来たようです」
そう言って、手早く空いたお皿をまとめると、奥に入ってしまいました。
「六方さん、そりゃあ女将さんの娘だったら可愛いに決まってるじゃないですか。だから不審者とかに襲われないかと心配なんですよ」
「たしかに八尾さんは人間の基準で見て、器量良しな子ですよ」
タヌキは枡からグラスに酒を移しながら、「でも、それだけじゃあないでしょう」と続けました。
「それだけじゃあないだろうね」
六方はタヌキに同意のようです。
「ただの不審者だったら、それこそわざわざタヌキに頼みこまなくっても、キツネの女将自身の手でなんとかするに違いない」
僕が首をひねりますと、タヌキが自分の腹を叩いて笑い声を上げました。
「高縄さんは、人間の犯罪者や変質者を考えてらっしゃる。子どもを狙う悪いやつらは他にもいますよ」
「教師や警察では手が出せない場合もある。子どもを狙うのは、人とは限らないってことだ」
六方が自分の目を指差します。
狐の窓で見ることが出来るようになる対象、つまり相手は妖怪や変化、別世界の生物だということでしょうか。
「この間の『黒い虫』とかですか」
六方がうなずきます。
虫に取り憑かれたイタチは、親友のタヌキに暴力を振るって人間の子どもを攫ってこさせようとしました。
「精神を支配されてしまうんですよね」
「心身を蝕むんですよ。ある種の寄生虫は宿主の行動を支配したり、性格を変えたりするらしいですから」
タヌキは博識で、魚に寄生してわざと水鳥に食べられやすい行動を取らせる「吸虫」の説明をしてくれました。
「最終目的地である水鳥の体内に入るために、宿主を操る。そう考えるとイタチもいずれ何者かの贄になっていたのかもしれない。本当に恐ろしいことです」
タヌキは六方に頭を下げました。
ちょうどそこへ、女将が一人分ずつの鍋を持ってきたので、寄生虫の話はやめにしよう、ということになりました。
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