狸の誘い

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六方はタヌキのことを、ぶっきらぼうな口調で紹介しました。 「太貫(おおぬき)太郎、あだ名はタヌキ先生。27歳、独身、バツイチ、前妻との間に4人の子持ち」 単にタヌキの、人間社会でのプロフィールを箇条書きで並べただけです。 「バツイチなんて、とんでもない。あくまで小学校で教職員をするために、その役を演じているだけですから」 狸というのはとても、夫婦仲のよい動物だそうです。 ほんとうは離婚なぞしていませんでした。 ただ、彼の子供たちは変化する――人間に化ける――ことが出来ないため、人間社会で一緒に暮らすことが出来ません。 タヌキの借りているアパートは、ペット禁止だからです。 「子供たちの世話は嫁さんがして、私は稼ぐ。単身赴任みたいなものですよ。一人暮らしでも怪しまれないようにするために、離婚ということにしているのです」 タヌキは鼻息荒く、説明しました。 六方は僕のことも、タヌキに紹介してくれました。 「高縄十三、20歳、大学の後輩、オカルト体質、うちの会社のバイト。……彼女持ち」 「ちょっと待ってください。僕に彼女がいること、知っていたんですか」 彼はそれに答えず、タヌキに向かって手を振りました。 「それじゃあ。私たちはこのあと、用があるので」 二人はこれから軽く夕食をとって、そのあと会社で打ち合わせをする予定でした。 会社、と言っても社員は社長の六方だけ、アルバイトは僕一人の零細企業です。 社屋はなく、六方のマンションがオフィスと作業場を兼ねていました。 「ちょっとちょっと、待ってくださいよ。六方の旦那(だんな)」 タヌキが声を上げました。
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