12人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
彼女のアパートの最寄り駅から二駅前で降りて、暗くなり始めた空を見上げて河川敷を歩き出す。
ジョギングをしたり、犬の散歩をしたりする人が通り過ぎて行く。都会の喧騒から切り離されたようなこの場所は緩やかに時間が流れているように感じて、少し気に入っていた。
水色のアーチが架かった橋の中央で、過去の自分を供養する。人生を呪っていた、あの頃の自分を。
「……さようなら、」
小さく呟くと、視界の端で立ち止まる影を不思議に思い振り返る。
そこには彼女が立っていた。
出会った時の凛とした瞳が、今にも泣きそうに揺らいで僕を見つめていた。
どうしてここに、と思うより早く自然と体が動いていた。
松葉杖をついて、一歩ずつ近付く。
走れない事がこんなにもどかしいのだと、今が一番強く思った。
「初めまして、水樹薫さん」
名前を呼んだ瞬間、彼女の瞳から涙が溢れ出した。
待っていてくれたんだろうかと、嬉しくなって、だけどつられて泣きそうになる。
「約束通り、僕の生きる理由を一緒に探してもらいます」
彼女の目元を拭うと、触れた肌にまた泣きそうになって、存在を確かめるように彼女に触れた。
本当は多分、もう見つかっていて。
あの夏の不思議な体験と彼女の存在が、生きる理由を見つけてくれたのだと、今となってはそう思う。
最初のコメントを投稿しよう!