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目的の階に着いて、オレたちはそのままエレベーターを降り、部屋に入った。そこでようやく、オレは腕と腰を解放された。
藤原さんはネクタイを弛めながら奥へ進んで行くが、オレはまだ、さっきの恐怖でドアの前を動けないでいた。
でもふと、今なら逃げられるのではないかと気付いた。
オレはくるりと体を反転させると、ドアノブを回した。しかし・・・。
それは、ガチャガチャ音を立てるだけで回らない。
な、なんで?
焦って何度もガチャガチャとやっていると、その手を上から押さえられた。
「料金を払わないと開かないんだ。いい加減にあきらめろ」
料金、てどこで払うの?
オレはこの手のホテルには入ったことがない。彼女がいる時も一人暮らしのお互いの部屋で済ませてた。なので、こういう所の仕組みが全然分からない。
焦ってバタバタしていると、藤原さんにまた腕を引っ張られ、そのままベッドに座らされる。
「少しは落ち着け」
そう言ってオレに、冷蔵庫から出した水のペットボトルを渡してくれたけど、オレは飲む気にはなれずそのまま手に持っていた。
確かに・・・少し落ち着こう。
オレは深呼吸して周りを見た。案外普通のホテルと変わらない。
ベッドは確かに大きいけど、その他の設備はシンプルで普通だ。
まあ、ベッドサイドに置いてあるものは如何にも・・・なものだったりするけど・・・。
大体なんでオレはここに連れてこられたんだ?藤原さんが連れてたのは綺麗な女性だったから、そっちの人じゃないよね?
予定では帰りの電車に揺られているはずだったのに、なんでオレはこんな所にいるんだ?
そんなことを考えていると、不意に肩を押されてベッドに倒された。そして、覆い被さるように藤原さんがのしかかってくる。
オレは焦って持っていたペットボトルを放り出し、藤原さんを止めた。
「な、何をしようとしてるんですかっ?」
ま、まさか・・・。
「ここでやることは決まってるだろ」
この手のホテルのベッドの上・・・いや、この手のホテルに入った時点ですることは決まっているが・・・。
「オレ、男ですよっ」
藤原さんのお相手は女の人でしょ?
「大丈夫だ。男もやり方は知っている」
違う、やり方の問題じゃなくてっ。
「藤原さんはゲイじゃないでしょ?」
オレも違いますっ。
「・・・確かに以前、男相手に勃たなかったが・・・」
そうそう、藤原さんは綺麗な女の人じゃないとできないですよ。だから、離してください。
身を捩って藤原さんの腕から逃れようとしたら、ぐっと力を込められた。
「・・・おまえならいける気がする」
え・・・?
何が起こったのか、理解できない。
オレはベッドに押し倒されたまま、唇を吸われていた。
チュッと音を立てて一旦離すと、再び降りてきた唇に、オレは咄嗟に唇を閉じて歯を食いしばった。けれど、そんなことは想定済みなのか、間髪入れずに下肢を握られ、驚いた拍子に口を開けてしまった。その隙を逃すはずもなく、藤原さんの舌はまんまと侵入してきた。
背中をバンバン叩き、足をバタつかせる。何とかそれから逃れようとするが、ビクともしない。その間もキスは深まり、オレの抵抗も徐々に弱まっていく。
「・・・ん・・・んん・・・」
キスはいつもする方だった。でも、どこをどうしたら相手が気持ちよくなるのか分からずに、ただ舌を動かしてただけだった気がする。
オレってキス下手だったよな・・・。
される側になって初めて分かった。どこをどうしたら感じるのか・・・。
口の中を這う舌が気持ちよすぎて、頭の中がドロドロに溶けていく。最後に舌を吸われ、下唇を甘噛みされて、唇は離れた。
キスだけで息が上がり、体も弛緩しきって、もはや抵抗なんて忘れている。
キスなんて、いつぶりだろう・・・。
いつ動かされたのか、ベッドの端にいたはずなのに、ちゃんと真ん中に寝かされていた。
動かない頭でぼうっとベッドに沈んでいると、藤原さんはオレのスーツのボタンを外し始める。
オレはそれを何とはなしに見ていた。
綺麗な長い指は、今度はワイシャツのボタンを外している。
なんの膨らみもない胸を見たら止めるかな?
ワイシャツを脱がされても手は止まらず、ベルトに手をかけた。
そこは既に布越しでも分かるほど膨らんでいる。
自分と同じものが付いてたら萎えるだろうか。それも既に大きくなっているものを見たら・・・。
男に勃たなかった、て言ってたっけ・・・。
それならそれで、オレは身を守れる。
だけど、藤原さんは勃ち上がったオレのものを見ても手を止めなかった。
オレ、なんか変だ。
こんな恥ずかしい姿晒してるのに、なんの抵抗も感じない。
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