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【夢のないあなたへ】
あれから一年が流れた。
当初は、祥子と連絡をとったり会ったりする度に、その話題になった。
祥子への勧誘は徐々に激しくなり、アパートまで押し掛けてくることもあった。
祥子に頼まれ僕が部屋で待ち伏せし、押し掛けてきた勧誘を撃退して以来、祥子にも勧誘は無くなった。
その後、二人でいてもその話題が出ることは減った。
朝から凍えそうな寒さの今日、祥子から飲みに行こうと誘われた。
大学時代に僕を振り続けた相手が、今は誘いの連絡が来る。
祥子と会うのをワクワクしているが、気持ちを悟られてまた振られるなんてことは避けたいので、気のない素振りをする。
そんな僕に春田からメールが届いた。
一度は親友であることを拒絶した僕に。
警戒心はありながらも、吉報を期待しながら開いた分だけ文面を見たときの脱力は大きかった。
うつ病の悪化に伴い、仕事を辞めて信者用の施設に入っていること。
症状が重く、施設から出る許可が得られないこと。
以前の勧誘の詫び。
そして、「会いたい」という言葉。
目の前が真っ暗に暗になる気がした。
うつ病で施設に缶詰。
それは、危険な行為に及ぶ可能性があるのではないかと、最悪の事態を想像してしまう。
勧誘されたときの、佐藤さんの言葉が頭に甦る。
『親友なのに』
『親友として』
僕が、春田を追い込んでしまったのだろうかと考え、心をえぐられたような思いがした。
今こそ力になってあげるべき。
しかし、会うためにはこちらから相手の本拠地に出向くことになる。
それは、向こうの思うつぼなのかもしれない。
僕は独り身。
失うものはない。
日が暮れても、電気をつけずに携帯片手に考えた。
その携帯が突然鳴り、反射的に通話を押す。
祥子の怒っている声が聴こえる。
考える気も起きず、ただ相槌をうつ。
いつの間にか電話が切れていた。
どれくらい時間がたったか分からない。
頭が揺れる。
徐々にそれが大きく激しくなる。
祥子の声が聴こえる。
半べその祥子の声。
「ジン、しっかりしてよぉ」
祥子!?
我に返るこの感覚を受けるのは2度目。
前回は祥子からの電話だったが、今は祥子が目の前にいる。
春田からのメールで呆然となり、祥子との予定をすっぽかしていた。
電話での僕の様子を心配し、祥子は家まで来てくれた。
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