【夢のないあなたへ】

2/3
前へ
/14ページ
次へ
届いたメールのこと、春田に会いに行こうと思っていること、全て打ち明けた。 祥子は、僕が会いに行くことを反対し、必死で僕を説得しようとする。 口論になりかけたところで、祥子は部屋から出て行った。 玄関ドアが閉まってしばらくたつが、その向こうに祥子はまだいるような気がしていた。 すると、玄関をノックする音が響き、続いて声がした。 「 手紙、新聞受けに入れるから読んでね。」 カサっと軽い音、続いてピンヒールの足音が遠ざかっていく。 僕は、ゆっくりと立ち上がり新聞受けから手紙を取り出した。 仕事で使っているのか、素っ気ない茶封筒とレポート用紙。 僕は、手紙を読むと一目散に駆け出す。 アパートを出て、駅の方へ。 少し先に、女性の後ろ姿が見える。 大学で最初に恋した女性の後ろ姿。 大学で最初に僕を失恋させた女性の後ろ姿。 何度も僕を失恋させた女性の後ろ姿。 互いに同じことを共有する女性の後ろ姿。 意識していないふりをし続けた女性の後ろ姿。 目の前まで迫った時、その後ろ姿の女性──祥子が振り返る。 一瞬、祥子の目には何かが溢れているのが見えた。 その光るものごと、僕は祥子を胸の中に納めるように抱きしめた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加