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駅から大学へは地下通路が繋がっていて、寒い地上へ出る必要がない。
しかしこの日は、駅から外へ上がった。
首元から凍りつくような空気が入り込んでくる。
クリスマスに染まった街並みを見ると寂しさがこみ上げる。
浮かれるカップルの笑顔にうんざりしながら商店街を抜けた。
商店街の外れ、雑居ビルの2階。
レトロというより、古びただけの喫茶店へ入る。
店内に流れるチューリップ『サボテンの花』が、店内を味のある雰囲気に変えている。
「よぅ、ジン」
既にコーヒーを飲んでいる春田 友喜は、僕を見て言った。
軽く手をあげて応え、隣に座る。
コーヒーを注文し、冷えた身体に熱いコーヒーを流し込む。
春田は、僕が話し始めるのを優しそうな表情で待っている。
この店に春田を呼び出す時はいつも、僕が話したいことがある時だから。
コーヒーで温まった腹からふぅとため息を出し、話し始める。
クリスマス直前に起こった、失恋。
相手はバイト先の子。
誕生月が同じで、お互い実家では犬を飼っているなど共通点があった。
そんな偶然の重なりに運命を感じて告白したが、即答で振られた。
そんな話を、うんうんと聞いてくれていた春田が言った。
「急ぎすぎじゃないかな」
指摘は、その通りかもしれない。
大学で、祥子から3度目に振られたのが先月。
そこから1ヶ月足らずで、僕はバイト先の子に惚れ、告白した。
「で、次は祥子に4度目の告白するのかな」
珍しく、春田が僕を冷やかすようなことを言う。
先月、数人でカラオケに行った際、祥子を見つめながらチューリップの歌を何曲か歌ったら、呆れたように振られた。
これは、先何年も笑い話として残るのだろう。
喫茶店に見覚えがあるお客さんが入ってきた。
同じ大学の、昼の部の学生。
時計を見ると17:30。
夜間学部の一限が迫っていることに気付き、二人で喫茶店を出る。
商店街を抜けるのが一番早いが、春田はわざわざ迂回して大学へ向かう。
クリスマスに染まる街並みを避けてくれたのだろう。
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