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僕達は、互いに4年の前期で単位も取り終え、就活も終えていた。
社会人の多い夜間学部は、卒論も免除。
後期は単位を取る必要はないが、学校に来る為に興味のある授業をとった。
単位をとる必要はないという安心感からなのか、初めて「勉強する楽しさ」を味わえた気がする。
年が明け、長めの冬休みが終わると後期のテスト。
単位をとる必要が無いテストは、過去最高点を叩き出した。
卒業認定の発表日、春田をメールでいつもの喫茶店に呼び出すと、春田も話したいことがあると返信がきた。
4年間も一緒にいて、春田からも話があると言うのは初めて。
喫茶店に到着すると、既に春田が一人でコーヒーを飲んでいる。
隣に座って、コーヒーを注文する。
いつもの光景。
一口、また一口と飲み進めるが言葉がでない。
いつもの恋愛相談は、その時は真剣だったし悩んでいた。
しかし、後から思えば幼稚な色恋沙汰に過ぎない。
今から言おうとしていることは、そんな相談や愚痴とは違いすぎて、どう話し始めたら良いのか言葉が出てこない。
僕のコーヒーが半分ほどに減り、春田のコーヒーはもう空になった。
中々話を切り出さない僕に気を使ってくれたのか、春田が先に話し出した。
「ジンなら、軽蔑せずに聞いてくれると思うから話すね」
いつになく神妙な面持ちの春田。
「俺の家さ、宗教やってんだ」
それは、若気のいたりで悩み相談をしていた僕とは、毛色も重さも違っていた。
春田の家系は代々、有名な新興宗教に属しているそうだ。
大人になるにつれて、『宗教』に対する周囲の否定的な考え方に触れることも増え、内緒にしていたという。
春田の両親が属している新興宗教は、色々な噂が絶えない。
中学くらいから、周囲の偏見を感じるようになったらしい。
笑えない冗談や心無い言葉を受けることもあっただろうことは、容易に想像が出来た。
大学では周囲が自分のことを知らない分、真剣に『教え』と向き合うことが出来た。
そして、社会に出てからは働きながら、信者としての立場も親から継ぐと決めた。
打ち明けてくれたこと、僕は驚くよりも嬉しかった。
まがいなりにも大学生として勉強してきた僕には、それなりに宗教についての知識はある。
新興宗教に属しているということの、良いところも悪いところも。
一つ分かっていること。
それは、目の前にいる親友の春田はとってもいいやつだということ。
優しくて、真面目で努力家。
誰が落としたかわからない道端のゴミでも、拾ってゴミ箱に捨てる。
そんなことを当たり前にする。
それが宗教の教えによるものなら、春田の宗教を否定していい大学生なんて僕は見たことがない。
「宗教ってさ、生き方の指標を持っているってことだろ。行き当たりばったりで生きてる俺より、ずっとしっかりしてるよ。」
それは、春田を気遣ったのではなく、素直に出た言葉だ。
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