【知り合えたあなたへ】

4/4
前へ
/14ページ
次へ
話し終えた春田は、コーヒーのおかわりを注文する。 すぐに、春田のカップに注がれ、湯気をあげる。 僕はカップに残る既に湯気がたっていないコーヒーを一気に飲み干す。 今度は僕の番。 4年前、人付き合いの苦手な僕に春田は声をかけてくれた。 色んな悩みや愚痴を、嫌な顔をせず聞いてくれた。 面接で、親友について聞かれたとき自信満々に答えることが出来たのは、春田のお陰だと思う。 そんな春田へ、4年間のお礼の気持ちを書いた手紙。 それを渡すのは、女性に愛の告白をするより何倍も恥ずかしい。 カバンから手紙を取り出し、喫茶店のマスターに目で合図を送る。 マスターが無言でステレオを操作すると、BGMがチューリップの『サボテンの花』から財津和夫『切手のないおくりもの』に変わる。  知り合えたあなたに この歌を届けよう  今後よろしくお願いします  名刺代わりにこの歌を そのメロディが流れるなかで、手紙を渡した。 春田は無言で読み、便箋を丁寧に折り直し封筒に戻しながら顔を上げる。 「ありがとう、なんかジンらしいね。こういうロマンチックなの」 そう言った春田はスッキリとした笑顔をしている。 僕のこういう行動も、素直に受け止めてくれる。 カウンターの向こうで、無言のマスターが一瞬、二ヤリと笑っているのが見えた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加