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電話は祥子から。
番号交換はしていたが、卒業してから電話で話すのは初めて。
片手で『ちょっとすみません』とジェスチャーしながら玄関へ向かう僕に、誰かが舌打ちをした。
「ジン、セミナーいつ参加することになった?」
全身から血の気が引いて青く染まっていくような感覚を覚える。
助け船と思ってしがみついた電話は、渡し船だったと落胆る。
しかし、続きを聞いて再び全身に血が巡る。
祥子も、昨日博子さんや友人と名乗る方から勧誘を受けた。
博子さんの手前、強く断れなかった。
一人で参加するのは心細いと逃れようとしたところ、僕も参加予定で参加日は明日決まると言われた。
その為、参加日と合わせたいと連絡してきた。
僕は参加しないことと、祥子にも断るように伝えて電話を切った。
部屋に戻り、今までにない冷たい気持ちで春田を見る。
続きを話そうとする佐藤さんを無視し、そのまま上着を手に無言で部屋を出る。
佐藤さんと田中さんが何か言っていたが、耳には入らない。
心が凍りついて、ボロボロと崩れていくような気がした。
後から春田が追いかけてきた。
息を切らせながら謝る春田の言葉で、僕の心に悲しさや虚しさが込み上がる。
「善意での勧誘なら、謝るのはおかしいんじゃね」
振り返りもせずにそう答えて、無言で歩く。
春田もその後ろを無言でついてくる。
来るときは10分だった道が、帰りは5分で着いた。
そんな短い時間でも、少しは頭が冷えた。
「次は、こんな形じゃない方法で会おう」
今度はちゃんと振り返って言えた。
ひきつった表情の春田を残し、僕は改札口へ入った。
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