2.プレゼント

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「私さ、康介からいろんなプレゼントもらったでしょ? ちゃんとお返ししなきゃ」 「プレゼント?」  嫌味な奴、と康介は思う。美香にプレゼントらしいものなどした覚えがない。だが美香は頷いてニタリと嗤う。 「そうよ、私、あなたからいっぱいもらったわ、とっても素敵なプレゼントを。だから私からもあなたに贈らなきゃ」 「だから何だよプレゼントって。どうせ俺はお前に何かやったことなんてねぇよ。でも今更……」 「ううん、もらったわよ。ほら、これを見て」  美香はそう言って袖を捲り上げる。そこには痛々しい傷跡があった。 「ねぇ康介これ覚えてる? 金沢に旅行に行ったときよ。あなた急に機嫌悪くなっちゃってさ、いきなり私を突き飛ばしたの!」  美香はケタケタと嗤いながら腕の傷を見せつける。 「それで私、止めてあった自転車に思いっきり突っ込んじゃったのよねぇ。ああ、可笑しい」 「おい、何言い出すんだ……」 「ああ、そうそう、これもよ! ほら見て!」  美香はそう言って今度はスカートを捲り太腿を露わにする。 「これはさ、康介がここに越してきてすぐだったわよね。部屋であんまりタバコ吸わないでって言った私に!」  嗤いながら美香は太腿に残るケロイド状の火傷跡を見せる。 「康介ったら沸騰したお湯をパシャッて。あははは」  美香の哄笑が部屋に響く。徐々に康介の顔が青ざめていった。普通じゃない、そう思った康介はとにかく部屋から出ようと扉に向け一歩踏み出す。 「あらやだ。どこ行くつもり? 言ったでしょ、ちゃんとお返しするって」  突如能面のような表情になり康介の前に立ち塞がる美香を見て康介は恐怖を覚えた。 「み、美香、またゆっくり話そう。な?」  美香はふっと微笑み部屋を出る。その隙に康介は玄関へと向かった。震える手で玄関のチェーンロックを外そうとするがなかなか外れない。そこへ美香がやって来た。両手を後ろに回しニタニタと康介を見ている。 「そのチェーン外すの、ちょっとコツがいるんだ」 「落ち着けよ、美香。すぐに連絡するよ。いろいろ勝手に決めちまったのは悪かったけどさ、ほら俺も独立しないと……」  美香は首を横に振り後ろで組んでいた手をゆっくりと前に回す。そこには包丁が握られていた。よく美香が「康介に美味しいお料理作ってあげるからね」と言って研いでいた包丁。蛍光灯の光で刃先が鋭く光る。 「お、おい、どういうつもりだよ」 ――だからプレゼントよ。 「冗談は止めろって。ちゃんと話そう。な?」 ――私から…… 「止めろってば! おい、美香! やめ……」 ――あなたへ。 完
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