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2.プレゼント
久々に一緒に過ごす週末。二人はテレビの前に並んで座りお茶を飲んでいた。
「ようやく落ち着いたね。もう当分実家には行かなくていいから、これからは二人でゆっくりしようね」
美香の言葉に康介のお茶を飲む手がピタリと止まる。
「ん、どうしたの?」
「ああ、いや、俺さぁ……」
湯呑から手を離し頭を掻く康介の口から出てきた言葉に美香は言葉を失った。
「今、何て?」
「だからさ、ここを出て行くよ。もう部屋借りたから」
慌てて部屋を見回す。既に康介の荷物は運び出されているようだった。
「え……、でもここ解約するのに二か月前には大家さんに言わないと」
新しく部屋を借りて二人で住もう、そういうことだろう。美香はそう思い慌ててそう言った。だが康介は眉間に皺を寄せ首を横に振る。
「だから、俺がここを出てくだけだっての。お前はここにいればいいだろ」
「え、でも……」
康介がため息をつく。
「もうさ、無理だって。俺たち」
二人の仲は順調に進んでいる、そう思っていた美香にとって康介の言葉は寝耳に水だった。
「どうして……」
「だいたいさ、六歳も年が違うんだぜ? 無理だったんだよ」
――女だ。
そう直感した。きっと会社で女ができたんだ。母親の看病で半年程週末家を空けている間に。美香は間抜けな自分を嗤った。
「好きな人……できたの?」
涙目で問い掛ける美香に康介は舌打ちする。
「もういいだろ。とにかく出ていくから。ま、世話になったな」
美香は頭がぐらぐらした。“美香ちゃん何かいいことあったの?”そう尋ねる母の笑顔が虚しく脳裡に蘇る。
――いいことなんてなかったよ、母さん。
「待ってよ、康介」
不意に現実が見えた気がした。馬鹿な男に利用された愚かな女。何だか無性に可笑しくなった美香はケラケラと嗤い出す。
「ええ、そうよね、わかってる。わかってんのよ」
康介が眉を顰める。
「何だよお前、急に笑い出したりして気持ち悪い。ま、いいけど」
少々不気味に思いつつも康介は部屋から出ようと立ち上がる。だが美香も同時にゆらりと立ち上がると康介の行く手を遮った。
「まぁ、待ってよ」
美香は嗤いを収め正面から康介を見据える。
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