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起こってしまったことは仕方ない
二羽のインコの歌声が響く部屋でテツは自問する。今まさにこのときだと、あのキャンバスを使ってしまったが、ナギはもう二度とあのキャンバスから外に出ることはできないのだ。
おれは一人の人間を永遠にあのキャンバスの中に閉じ込めてしまった……。絵を描く人間として、絵を描く道具をそんなふうに使ってしまった。本当にそんなことが許されるのだろうか?
ナギの閉じ込められたキャンバスを見つめながら、テツは自分のやったことの恐ろしさに打ち震える。
「起こってしまったことは仕方ないですよ」
メイドが部屋に散らばる花瓶やティーカップの破片を掃除しながらそう言った。
「お嬢さまはいつかこんな運命をたどるような気がしていました。義理のお母さまの厳しいしつけのおかげで、他の人とうまく関係を結べずにずっと今までやってきましたけれど、もう限界だったんです。お嬢さま自身、もはや破滅への道をまっしぐらに突き進んでいるみたいでした……」
メイドはそこで言葉を止めた。床に散らばった破片を掃除する手も止まる。テツはそんなメイドの姿に、老人の言った言葉を重ねる。
「つまりは周囲の人間を支配することに喜びを覚える、という人間に成長したんじゃよ」
ひょっとすると、この人も? テツは息を飲む。
「さて、とにかくこれでようやく注文の肖像画も出来上がった」
テツは絵の道具を片付けはじめる。何かに気付いてしまったことを、メイドに気付かれまいと取り繕うように。自分の描いた三枚の肖像画と、ナギを吸い込んでしまったキャンバスをひとまとめに、部屋の隅へ置く。
「わたしはこれで……」
出ていこうとするテツをメイドが引き止める。
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