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そうおっしゃるのなら
「あの、ちょっと待ってください。もしよろしければ……」
メイドが床に散らばったナギのアクセサリーをかき集めながら、テツに声をかけた。
「この宝石、留学費用の足しになりませんか?」
「そんなものはさすがにいただけませんよ。お礼ならお約束の額をいただきましたので」
すかさず断るテツの手に、メイドは金銀宝石で出来たアクセサリーを押しつける。きらびやかに輝く鉱石の山は見かけよりもずっと重い。それはむしろ鉱石そのものの重さというより、富が凝縮したような重さだ。
「いいえ。もはや身に着ける人間はもういませんから。それに、あなたにも無理を言って肖像画をお願いしたんです。ですから、せめて留学費用の足しにと」
メイドのテツを見つめるまなざしは真剣だ。
「そうおっしゃるのなら、遠慮なくいただくことにします。いや、本当にありがとうございます。こんなに高価なもの、留学費用どころか留学中の生活費だって賄えます。これで思いっきり絵の勉強に専念できますよ」
テツは屋敷を出ていく。絵の道具の入った袋の底には金銀宝石。重みを増した袋を掲げ、テツはこれが最後だと屋敷に振り返る。
ちょうど、絵を描いていた部屋の窓から二羽のインコが外に飛び出してきたところだ。自由を喜ぶように歌うインコの声が青空で軽やかに響く。テツは重みを増した袋とともに前に進みはじめる。
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